NIST: Foundations for developing new industrial application NIST: Foundations for developing new industrial application | HBM

この研究の一環としてNISTでは、精密工学を駆使し、急速加熱機能を備えたスプリットホプキンソン棒(具体的にはスプリットホプキンソン圧力棒)を開発しました。この装置の開発目的は、高速機械加工プロセスの有限要素モデリングを改善するために、材料特性情報を提供することです。

NISTのスプリットホプキンソン棒は、ベアリング上に取り付けた長さ1.5 m、直径15 mmの2本の高強度ステンレス棒から構成されており、軸方向のスライドを容易にしながら、他の方向では曲げに対する抵抗性を高めています。これら2本の棒はそれぞれ、入射棒および透過棒(Transmission Bar)と呼ばれています。さらにストライカー(打撃棒)と呼ばれる3番目の棒があり、これも2本の棒と同様に高強度ステンレス鋼でできています。ストライカーは、直径は2本のメインの棒と同じですが、ずっと短く簡単に動かせるようになっています。

実験を実行する時は、対象となる材料の円筒形のサンプルを2本の棒の間に固定し、軸方向の対称性を慎重に調整します。これにより、半径方向の影響を無視しながら、収集されたすべてのデータを、一次元波理論を使用して分析することが可能になります。ここでエアガンの速度を様々変えて高速に発射し、入射棒に向けてストライカーを打ち込みます。

ストライカーの衝撃によって送り出された圧縮応力波が、入射棒とサンプルを通過します。このアプローチを使用することにより、サンプルに対する圧縮応力波の衝撃が急激に与えられます。圧縮応力波がサンプルに到達する時、棒とサンプルの間にある電気抵抗の差によって、入力波が2つの部分にスプリット(分割)されます。

第1の部分は、入射棒に沿って反射して戻ってくる伸張波です。第2の部分圧縮応力波のまま直進し、急激かつ恒久的にサンプルを塑性変形させます。その後、圧縮応力波は透過棒に伝播します。NISTのスプリットホプキンソン棒は、サンプルだけが塑性変形による影響を受けるように設計されています。

米国の製造業、生産能力の向上のために迅速なデータ取得を活用

世界中の製造企業が自社製品の品質向上に取り組む中、国際的な競争力を確実に維持するため、米国の研究者らはHBM製のDAQ(データ取得)機器を活用しています。

米国の製造業は、国際的な競争力を維持するための努力の一環として、抜本的な変革に取り組んでいます。この変革は、複雑で高度にカスタマイズされた高品質の商品を設計・製造することに重点を置いたものです。グローバルデマンド(世界的需要)とは、変化する市場の要求を満たすため製造工程を迅速化しなければならないことを意味しています。製造業者は製品開発サイクルを短縮し、また供給ネットワークの他に生産システムについても柔軟性とスピードを向上させなければなりません。しかも、エネルギー要件環境影響を低減しながら、こうした取り組みをやり遂げる必要があるのです。

米国の製造業が直面している大きな課題の一つに、特定の工程や作業材料に対して最善の機械加工パラメータを正確に予測する能力の問題があります。

この点が、米国における主な研究上の焦点になっています。これを受けて米国標準技術局(NIST)では、既存の製造工程の科学的な理解を高めるために、先進的なプロセスの計測方法およびツールを開発しています。

研究目標

この研究が意味するものは、米国の国際的な競争力をさらに強化できる新しい産業アプリケーション開発のための基礎造りです。

これまで、多角的な製造プロセスにとって決定的な重要性を持つと予想される、いくつかのプロセスが開発されてきました。そしてNISTは、これらのプロセスには業界標準の計測アプローチが必要だと感じています。

  • NISTが注目している一般的なプロセス上の現象には、力、温度、材料特性、そして特にツールインターフェースにおける材料の変化などに関する把握を高めることが含まれています。
  • もう一つの注目点は、製造工程におけるパフォーマンス、摩擦、振動などを考慮して、ツールの摩耗が及ぼす影響を低減する方法です。

こうした状況変化の影響で、人間の経験に基づいた製造手法から、科学を基準としたモデリング、意志決定、そして製造へと、方向の転換が求められています。NISTのプログラムでは、米国の製造業がこうした転換を実行に移すのを支援するため、基本的な計測基準ツールの開発を進めています。

スプリットホプキンソン棒装置内のサンプル

パルス加熱

さらに、このNISTの装置に制御機能付の抵抗加熱システムを組み合わせることで、テストサンプルの計測に関してユニークな視点が得られました。

当初この加熱システムが開発されたのは、例えば純金属の融解における臨界点などの、高温条件下における金属の物理特性を計測するためでした。現在ではこのシステムが改良され、精密に制御した直流電流のパルスを使用して、テスト用に設置した実験用サンプル超高速予熱することが可能になっています。

NISTのスプリットホプキンソン棒は、1秒に満たない短時間で試験用サンプルを1,000℃まで加熱することができます。こうした高温状態は、電流を急速遮断するまで数秒間保たれるため、急速加熱されたサンプルを対象とした動的圧縮試験を、最大104秒-1までのひずみ速度で実行することができます。

NISTのスプリットホプキンソン棒と予熱されたサンプルを組み合わせることにより、研究者は、指定された温度において加熱速度と時間が炭素鋼の流動応力に及ぼす影響を調べることが可能になるため、高速の機械加工プロセスをシミュレーションすることができます。

パルス加熱の速度は、高速機械加工プロセスで一般的に見られる速度より低いものの、従来型の方法を使用した予熱サンプルに比較するとはるかに急速です。熱的に活性化された微細構造プロセス(転位の焼きなまし、結晶粒の成長、固体段階の変形など)にかかる時間が、比較的短いので流動応力計測値の取得が可能となり、大きなメリットが得られます。

データ取得の重要性

このテストの主な目的は、先進的なプロセスの計測方法およびツールの開発を支援するためのデータを収集することです。したがって、高性能データ取得解析機器を使用してNISTスプリットホプキンソン棒をモニタリングすることが非常に重要です。

通常、一つの材料に対して5回から10回のテストを実行するので、テストは繰り返しが可能でなければならず、またDAQは異なる試験からのデータを確実に比較できる性能を備えていなければなりません。これに加えて、サンプルが非常に薄く実験中に変形して元に戻らなくなるため、試験はすべて破壊試験となります。

こうした条件により、試験中における各テストの実行間隔がほんの数ミリ秒であるため、関連するすべてのデータを正しく取得して解析するためには、システムの設計に多くの制限が課せられます。

ソリューションはGenesis HighSpeed

これらすべての要件を確実に満たすため、NISTは、Split Hopkinson Bar Data Processing And Distribution System(PADS:スプリットホプキンソン棒法によるデータ処理および分配システム)と呼ばれる統合型ソフトウェアシステムを開発しました。

HBM製の Genesis HighSpeed データ取得機器は、Data PADSにスプリットホプキンソン棒法による計測データを提供しています。HBMがNISTの要件を満たすことができたのは、Genesis HighSpeedが、以下に示す試験中における3つの重要ポイントからの関連データを、非常に短い時間制限の中ですべて取得することができる堅牢なDAQシステムだからです。

  • 初期の圧縮衝撃
  • 反射された圧縮応力波
  • 継続的な伸張波

これをHBMの持つ国際的な計測の専門知識と組み合わせると、ストレインゲージから解析ソフトウェアに至るまで、同様のシステムの構築を希望している研究者にとって必要な、センサ、データ取得、データ処理機器を、すべて提供することが可能となります。

HBM Genesis HighSpeed DAQの持つもう一つのメリットは、この装置が高速A/D変換ボードを使用して取り付けられているため、振幅の小さな電圧正確に記録することが可能な点です。DAQシステムは、継続時間が通常1ミリ未満の信号を記録するために高周波応答を必要とします。一般に、データ取得システムに含まれる全コンポーネントの最小周波数応答は、ストレインゲージデータ用が2 MHz、加熱データ用が100 kHzでなければなりません。

ひずみゲージ(ストレインゲージ)は、NISTのスプリットホプキンソン棒を使用した実験において、棒のひずみを計測するための標準的な技術として発展してきました。通常は、棒の表面に2つのストレインゲージを棒の直径を横断して対称に取り付けます。入射棒と透過棒の中間点にストレインゲージを取り付け、一次元弾性波解析を使用することで、ひずみ応答に対するサンプルの応力を取得することができます。ストレインゲージからの信号は、ホイートストンブリッジを使用して処理されます。一般的に、こうした実験におけるホイートストンブリッジからの電圧出力は、振幅がミリボルト単位の小さな値を示します。

2セットの標準的な直線ストレインゲージをフルブリッジ回路に配列します。上流側のストレインゲージには二重の目的があり、材料への入射ひずみを計測し、さらにサンプルに衝撃を与える機器内で負荷パルスから戻ってきた反射ひずみを計測します。下流側のストレインゲージは、材料を通過してNISTスプリットホプキンソン棒の第2セクションに入った伝達応力を記録します。

Genesis HighSpeed DAQ機器が持つもう一つのメリットは、使用法が容易な点で、ソフトウェアを簡単に変更してどのような用途でも特定のニーズに合わせることができます。Genesis HighSpeedデータ取得機器に、HBMの持つひずみやストレインゲージに関する知識を組み合わせることで、HBMはお客様にユニークな専門知識のコンビネーションを提供することができます。

データ解析が簡単に

歴史的にエンジニアは、FortranやMatlabなどの言語で、静的で手続き型のスクリプトを使用して、よく似た実験からのデータを分析してきました。しかし現在では、優れたグラフィックインターフェース(GUI)を備えたGenesis HighSpeedおよびHBMの関連ソフトウェアという新しいツールを活用できるようになっています。

また、一般的にエンジニアは、まずテストを実行してデータを解析し、その後で処理済みデータだけ利用する傾向があります。しかしHBMが提供する広範な関係型データベースにより、研究者は元データを処理用のパラメータと一緒に保存しておき、必要に応じてデータをリアルタイムで再処理することが可能になります。これは、スプリットホプキンソン棒のデータから応力/ひずみ曲線を作成する時には非常に便利です。Genesis HighSpeed機器を利用すると、ファイルサーバを経由してネットワーク上でデータにアクセスすることが可能になります。また、Genesis HighSpeedをノートパソコンにインストールしてスタンドアローンモードで使用すると、完全なテスト記録を後から簡単に取り出すことができます。

この機能の有用性を示す一例がData PADSです。Data PADSは、未処理のストレインゲージデータおよびメタデータの両方を保存し、ストレインゲージデータをどのように処理すべきか記述することにより、様々な想定下での応力/ひずみ関係およびその他のデータ曲線を対話式で再計算します。また、NISTが開発したData PADSには、可視高速ビデオ、温度カメラビデオ、高速パイロメーターデータ、発射体の速度上のセンサデータさらに技術文書と関連情報などを収めたデータベースが含まれています。加えて、ソフトウェアには複数のユーザーがアクセスする必要があり、こうしたユーザーが、様々な構成のシステムを使用して、異なるタイプのテストを実行することが可能になっていなければなりません。

較正定数や試験条件のような通常の一次元データに加えて、NISTスプリットホプキンソン棒の機器は、電流、温度、発射体の位置、および時間に対するストレインゲージデータなど、広範囲の二次元データを生成します。また、包括的なデータを提供するため、温度画像や時間に対する可視光画像のような三次元データも生成することが可能です。

結論

NISTスプリットホプキンソン棒装置を使用すると、チップ形成の基本的な問題についてシミュレーションを実行することが可能になります。チップの形成中は、加工対象製品が圧力と温度の極端な条件下で切削工具と接触します。その結果、切断直後の材料が工具の表面を滑走すると同時に、薄い一次剪断帯と、工具と加工製品の接触面に沿った二次剪断帯の両方で、非常に高いひずみ率による大きな塑性変形が発生します。

一部の材料では、高速切断中の温度が融解温度に近づくことがあります。ユーザーフレンドリーな有限要素ソフトウェアのパッケージが開発されたこともあって、モデリングとシミュレーションは大幅に進歩しましたが、材料特性の改善に対するニーズを満たすにはNISTのスプリットホプキンソン棒装置の開発が重要な役割を果たしました。これによって、機械加工プロセスのモデリングとシミュレーションにおける精度と信頼性が向上したからです。

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