3. インバータ給電の非同期モータに関する各種測定
図3.1はインバータ給電の非同期モータの相電圧(u1(t),u2(t),u3(t)) と相電流(i1(t),i2(t),i3(t))の経時変化を表しています。電圧と電流の計測方向は図1.1の概略図に示されています。空間ベクトル量は公式2.02を使用して、測定した位相数量(phase quantities)より計算できます。Perceptionソフトウエアではすべての変数は実数である必要があるため、空間ベクトルの実数と虚数の各部分は独立して計算されます。以下の公式は位相電圧と位相電流をこの計算方式で算出しています。
(3.01)
図3.1: 計測された相数量 (i1,i2,i3,u1,u2,u3) と計算された空間ベクトル量(ia,ib,ua,ub)
(Perceptionソフトウエアをご利用の方向けに、次に示すファイルがあります:Space Vector and GapTorque .pNRF. このファイルをダウンロードする.
3.1 Calculating the stator flux of an asynchronous motor
3.1非同期モータの固定子磁束を計算
固定子磁束の空間ベクトル は非同期モータの磁気フィールドを表しています。固定子磁束の空間ベクトルは固定子電圧とモ-タの固定子抵抗Rs による電圧降下の差を積分して取得します。
(3.06)
要求精度のレベルによりますが、一部のモータでは低い固定子抵抗は一般的には無視できます。積分の結果が示すように、固定子磁束は連続した数量です。図3.1が示すように、変調された形のパルスが固定子電圧に発生していますが、固定子磁束の空間ベクトルの実数部分 ψα(t)と虚数部分ψβ(t) はおおむね正弦波になっています(図3.2a)。荒い近似としては、固定子磁束の空間ベクトルの軌跡は円になっています。 その円の半径は固定子磁束の振幅に対応しています。
Fig. 3.2: 非同期モータの固定子磁束空間ベクトル
a) 実数部分 と虚数部分の経時変化
b) 複素数平面における空間ベクトルの軌跡
3.2 インバータ給電式非同期モータの電磁(力)トルクの計算
非同期モータにおいては、いわゆる慣性モーメントが電圧(磁束)と電流から計算できます。電磁(力)トルクはモータ各部の摩擦によるトルクとモータ軸にかかるトルクからなっています。摩擦によるトルクを無視すると、電磁(力)トルクの計算値は、トルク変換器で高精度に測れる機械的トルクに対応します[3]。
トルクの計算値の精度は数式モデルとモータパラメータの精度に依存します。この電磁(力)トルクの計算値はトルク変換器よりの計測信号を補完する冗長信号として使用できます、なぜなら、その値は少なくとも機械的慣性モーメントの大きさと同程度であるからです。さらには、電気自動車のトルク計算値はトルク変換器で計測される全ドライブトレインのトルクに相関させることができます。これによる、アプリケーションとしては、ハイブリッド自動車が考えられます。内燃エンジンと電気モータが同一のドライブトレインに乗っているからです。電気自動車のトルク計算値から、内燃エンジンの慣性モーメンントが決定できます。
文献 [2] より非同期モータの電磁(力)トルクは固定子電流と固定子磁束より計算できることがわかっています。
(3.06)
ここで、ρは非同期モータの極対数を意味します。電流と磁束は空間ベクトル量で表されています。図3.3は固定子電流と磁束の経時変化と、これらより計算された電磁(力)トルクMiを表しています。結果としてトルクリップルがはっきりとわかります。この高周波リップルは、インバータのスイッチング動作により発生しています。Perceptionソフトウエアで慣性モーメントを計算するためには、モータ電流の基本波の周期を正しく認識することが非常に重要になります。
図 3.3: 固定子電流(iα, iβ) と固定子磁束(ψα, ψβ) の経時変化と慣性モーメントの計算値Mi