非同期モータの空間ベクトル量や慣性モーメントの計算をGenesis HighSpeedとPerceptionソフトウエアを使用して実施 非同期モータの空間ベクトル量や慣性モーメントの計算をGenesis HighSpeedとPerceptionソフトウエアを使用して実施 | HBM

非同期モータの空間ベクトル量や慣性モーメントの計算をGenesis HighSpeedとPerceptionソフトウエアを使用して実施

HBMのGenesis HighSpeedシリーズ は特にインバータ給電の非同期モータの計測作業に適しています。モジュールデザインなので、高速サンプルレートを維持したままで、使用チャンネル数を無制限に追加できます。そのうえ電気モータへの入力値を高精度で計測できるのが特長です。またPerceptionソフトウエアを使用すると、磁束やモータ内部の電磁(力)トルクなどの数値が計算できるようになります。

1. はじめに

様々な方式の再生可能エネルギーを推進力に使用できる電気駆動式自動車が、人の移動の手段としますます重要性を帯びてきています[1]。 図1.1は電気自動車の原理を図解しています。自動車のバッテリは、外部電源より充電器経由で充電されます。インバータにより自動車バッテリのDCは三相交流に変換され非同期モータに供給されます。電気モータには非同期モータを始め同期モータやリラクタンスモータを使用することができます。

技術及びコストの面から、非同期モータが工業用や自動車用の駆動装置として多数のアプリケーションで使用されています。自動車の走行距離は、バッテリに充填できるエネルギー量により決まります。およそ20 kWh/100 kmが必要ですが、自動車の重量、運転方法、路面状況、駆動系の効率などに依存します。またエネルギーの消費効率と最大走行距離の設定により、バッテリの容量、重量、価格が決まります。このためエネルギーの消費効率に大きな影響を持つ駆動系の高効率化が、電気自動車の走行距離を伸ばして、コストを抑えるためには非常に重要なポイントになります。

ここでは、まず非同期モータの機能について説明します。次に、空間ベクトルを使用した数学的記述の紹介ののち、

ここでは、まず非同期モータの機能について説明します。次に、空間ベクトルを使用した数学的記述の紹介ののち、 PerceptionソフトウェアGEN3i data recorder [5]を使用した実測定の例により説明します。

2. 非同期モータ

設計が簡単で耐久性があるので、非同期モータが推進力用に数多く使用されています。図2.1は、かご型非同期モータの例です。固定子のコイルが3か所にあります。かご型は回転子をアルミや銅の棒でかご型に組んで導体の両端を短絡したもので、リスかごに取り付けられた円筒形の回し車のような形をしています。

回転軸を中心に3か所にオフセットして配置された各コイルに、3回に分けて順に電流を流すことにより回転力を生む磁場を形成します。磁場は同期されて回転し、そのスピードは:


(2.01)

公式 2.01は、同期した回転速度は固定子の周波数fS と非同期のモータのいわゆる極対数pに依存することを示しています。

磁界が、かご型回転子を通り抜けると、電導性の棒に電圧が誘導されます。すると回転子の両端に短絡用のリングが取り付けられているため、誘導電圧による大電流が棒の中に流れます。レンツの法則により回転する磁場の方向に回転子を加速する力が生じます。これは回転子と回転する磁場の速度の差を縮めることになります。

図2.1: かご型回転子を使用した非同期モータの構造
a)横方向の断面図 と b)縦方向の断面図

2.1 空間ベクトル

1959にKovacsは3相システムの数学的説明を容易にするために空間ベクトル理論を確立しました。この理論は、制御法を説明するのに実際に使用されています。3相システムの電気及び磁気のパラメータは、2軸の直交座標と、特定の状況で存在するゼロシーケンスシステムに、マッピングすることができます。空間ベクトルは複素数として2軸の直交座標に表現することができます。その虚数部分と実数部分は、複素数平面上のα軸とβ軸に投影された空間ベクトルに対応しています。 

公式2.02 は複素数の空間ベクトル  の計算方則を示しています。

3個の位相の数量(Quantities)であるx1,x2,x3 をあてはめる:

(2.02)

複素数の演算子(コンプレックスオペレーター)をα として、関連のゼロシーケンスシステムは以下のように計算できます:

(2.03)

図2.2直交座標システムにおける空間ベクトル を表しています。ベクトルの実数部分は横軸のα に虚数部分は縦軸のβにプロットされています。位相に関する数量は120°の間隔で展開したa,b,c軸に、空間ベクトルをそれぞれの軸に投影して得ることができます。

図2.2: 複素数平面における空間ベクトル

2.2 空間ベクトルを使用した非同期モータの等価回路図

電気モータの運転中の挙動は等価回路図で表すことができます。図 2.3は空間ベクトルを使用した非同期モータの等価回路の概略図です。インバータより非同期モータにかけられた固定子の電圧は空間ベクトル  です。回転子の電流  が非同期モータに流れます。等価回路図では固定子の抵抗をRs. インダクタンスLμ はモータの磁化インダクタンスを表しています。モータのリークインダクタンスはLσ
に含まれています。Ryは固定子側に変換された回転子の抵抗を示しています。非同期モータのシャフトにおける機械的回転速度nは電子角周波数ωとして等価回路図に表現されています。これら2つの数量は極対数ρを使用して互いに変換できます。

(2.04)

非同期モータの詳細に関しては[2] を参照してください。 [2].

図2.3: 非同期モータの等価回路の概略図 

3. インバータ給電の非同期モータに関する各種測定

図3.1はインバータ給電の非同期モータの相電圧(u1(t),u2(t),u3(t)) と相電流(i1(t),i2(t),i3(t))の経時変化を表しています。電圧と電流の計測方向は図1.1の概略図に示されています。空間ベクトル量は公式2.02を使用して、測定した位相数量(phase quantities)より計算できます。Perceptionソフトウエアではすべての変数は実数である必要があるため、空間ベクトルの実数と虚数の各部分は独立して計算されます。以下の公式は位相電圧と位相電流をこの計算方式で算出しています。

(3.01)

図3.1: 計測された相数量 (i1,i2,i3,u1,u2,u3) と計算された空間ベクトル量(ia,ib,ua,ub)
(Perceptionソフトウエアをご利用の方向けに、次に示すファイルがあります:Space Vector and GapTorque .pNRF. このファイルをダウンロードする.

3.1 Calculating the stator flux of an asynchronous motor

3.1非同期モータの固定子磁束を計算
 

固定子磁束の空間ベクトル は非同期モータの磁気フィールドを表しています。固定子磁束の空間ベクトルは固定子電圧とモ-タの固定子抵抗Rs による電圧降下の差を積分して取得します。

(3.06)

要求精度のレベルによりますが、一部のモータでは低い固定子抵抗は一般的には無視できます。積分の結果が示すように、固定子磁束は連続した数量です。図3.1が示すように、変調された形のパルスが固定子電圧に発生していますが、固定子磁束の空間ベクトルの実数部分 ψα(t)と虚数部分ψβ(t) はおおむね正弦波になっています(図3.2a)。荒い近似としては、固定子磁束の空間ベクトルの軌跡は円になっています。 その円の半径は固定子磁束の振幅に対応しています。


Fig. 3.2: 非同期モータの固定子磁束空間ベクトル
a) 実数部分 と虚数部分の経時変化
b) 複素数平面における空間ベクトルの軌跡

3.2 インバータ給電式非同期モータの電磁(力)トルクの計算

非同期モータにおいては、いわゆる慣性モーメントが電圧(磁束)と電流から計算できます。電磁(力)トルクはモータ各部の摩擦によるトルクとモータ軸にかかるトルクからなっています。摩擦によるトルクを無視すると、電磁(力)トルクの計算値は、トルク変換器で高精度に測れる機械的トルクに対応します[3]。 

トルクの計算値の精度数式モデルとモータパラメータの精度に依存します。この電磁(力)トルクの計算値はトルク変換器よりの計測信号を補完する冗長信号として使用できます、なぜなら、その値は少なくとも機械的慣性モーメントの大きさと同程度であるからです。さらには、電気自動車のトルク計算値はトルク変換器で計測される全ドライブトレインのトルクに相関させることができます。これによる、アプリケーションとしては、ハイブリッド自動車が考えられます。内燃エンジンと電気モータが同一のドライブトレインに乗っているからです。電気自動車のトルク計算値から、内燃エンジンの慣性モーメンントが決定できます。

文献 [2] より非同期モータの電磁(力)トルクは固定子電流と固定子磁束より計算できることがわかっています。


(3.06)

ここで、ρは非同期モータの極対数を意味します。電流と磁束は空間ベクトル量で表されています。3.3は固定子電流と磁束の経時変化と、これらより計算された電磁(力)トルクMiを表しています。結果としてトルクリップルがはっきりとわかります。この高周波リップルは、インバータのスイッチング動作により発生しています。Perceptionソフトウエアで慣性モーメントを計算するためには、モータ電流の基本波の周期を正しく認識することが非常に重要になります。


図 3.3: 固定子電流(iα, iβ) と固定子磁束α, ψβ) の経時変化と慣性モーメントの計算値Mi

4. まとめ

本文はインバータ給電式非同期モータに関する各種測定を紹介しました。測定された相数量は、いわゆる空間ベクトル量に変換され、測定結果の分析を手助けしています。非同期モータの磁束は固定子電圧の積分により計算されます。これらの電気的に計測された数量と磁気的数量の計算値を組み合わせることにより非同期モータの電磁(力)トルクが計算できるようになります。このトルクの計算値は高精度トルク変換器よりの実測した信号を補完する冗長信号として使用できます。このトルク計算値は実測値の有効性診断に使用でき、測定エラーを迅速に発見します。

参考資料

[1] D. Eberlein; K. Lang; J. Teigelkötter; K. Kowalski: Elektromobilität auf der Überholspur: Effizienzsteigerung für den Antrieb der Zukunft; Tagungsband 3. Tagung Innovation Messtechnik; 14. Mai 2013

[2] J. Teigelkötter: Energieeffiziente elektrische Antriebe, 1. Auflage, Springer Vieweg Verlag, 2013; ISBN 3-8348-1938-3

[3] R. Schicker; G. Wegener: Drehmoment richtig messen; Hottinger Baldwin Messtechnik GmbH 2002, ISBN 3-00-008945-4  

[4] Berechnung von Leistungsgrößen mit Perception-Software
https://www.hbm.com/de/3783/berechnung-von-leistungsgroessen-mit-perception-software/

[5] www.hbm.com

Perception formula downloads

Space Vector and Air GapTorque.pNRF