ひずみゲージ(SG)の最大許容ブリッジ励起電圧は、ゲージ仕様の中でも重要なパラメータの一つです。この値が重要な理由と、その計算方法や実アプリケーション上での注意点について述べます。

 

 

発熱体としてのひずみゲージ

ホイーストンブリッジを使用した、ひずみゲージでひずみを計測する場合は、原理上ひずみゲージを電気抵抗体とみなすことができます。ひずみゲージのグリッドの中で使用される電力は熱の形で消費されます。

ひずみゲージ内の過剰な熱は計測値に誤差を生じさせるので、熱を発散する必要があります。この避けるべき計測誤差は以下のような要因でおこります:

l ひずみゲージの熱膨張によって起こる見かけのひずみで、ゲージのゼロドリフトとして現れる。

l 測定対象とひずみゲージ間の熱膨張の過剰な違いより起こる、ひずみゲージの持つ自動温度補正機能の劣化。

l 強い加熱が加わることによる、温度限界を超える場合(例えば接着剤の)。特に、高い温度雰囲気で測定が行われる場合。

ひずみゲージの過熱は、すべてを避けることができないので、最大許容ブリッジ励起電圧などで、適切な使用制限範囲を決めることが重要となります。この制限を守ることで計測誤差を最小にすることができます。

以下の例では、測定対象の温度に比べて最大5℃までのゲージ温度上昇が許容されます。計測が室温で行われるとすると、実際に起こる計測誤差は1µm/m以下です。ひずみゲージが最大の温度依存性を有する温度範囲において使用された場合でも、誤差は通常10µm/m以下です。

発熱に関連する要因

以下の要因が発熱に重大な影響を持つので、同様に最大許容ブリッジ励起電圧Umaxに対しても重要な要因:

1. ひずみゲージ抵抗値R:抵抗値が高いと発熱量が下がる。

2. ひずみゲージのグリッド面積A:面積が大きいと放熱効率があがる。

3. 被計測体(計測対象物)の熱伝導性λ:放熱効率に影響する。

4. 設計上の特性:例えばひずみゲージの特別設計(重層構造の計測グリッド)

 熱伝達モデル

電気的な観点からは、最大許容ブリッジ励起電圧は、抵抗値R、最大電力Pである場合は、以下のように計算されます:

 

熱の影響に対する考察は、ひずみゲージが無限の熱容量Cを持つ被計測体に結合している構造を前提とした熱伝達モデルにより行えます。

温度勾配ΔT/dは、ひずみゲージと被計測体間の温度差に起因しており、ひずみゲージに近接した部分で生じています。これは、グリッド面積とひずみゲージの抵抗値から独立しており、故障解析の尺度になります。研究の経験上から、一般的には、計測誤差に対する上記のリミットはひずみゲージに近接したエリアの温度勾配がΔT/d = 0.75² ℃/mmであることと同等です。

図1: ひずみゲージから被計測体への熱発散に関する熱伝達モデル

 

 

熱伝達モデルの発散する熱エネルギ <ruby>Q<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby> は、ひずみゲージの面積Aと被計測体の熱伝導係数λ 及び、温度勾配ΔT/dから構成されています:

 

 

静的モードでは、電力量Pとキャリア経由で被計測体に発散される熱<ruby>Q<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby> の間で均衡が成立しています。

 

最大許容ブリッジ励起電圧の計算

このモデルで電気により発生した熱が、被計測体を通して完全に発散すると仮定すると、ひずみゲージの最大許容ブリッジ励起電圧Umaxは以下のような式で表せます:

 

この数式に既知のパラメータや経験則上えられた温度勾配などを当てはめることにより、いろいろなひずみゲージの最大許容ブリッジ励起電圧を計算で求めることができます:

 

  • Ÿ  抵抗値R: ゲージの特性
  • Ÿ  計測グリッドの面積A: グリッドの面積は長さと幅の大きさで決まるので、小さなひずみゲージは大きなものより早く加熱して、最大励起電圧が低くなります。
  • 熱伝導率λ: 計測体のこの特性は最大励起電圧に非常に大きく影響します。例えば、熱の良導体であるアルミと通常のプラスチックでは大きな差があるからです。以下の、テーブルはよく使用される被計測体の材料を示しています。
Measuring body materialThermal conductivity λ [W/m*K]HBM part numberCorrection factor for steel
Ferritic steel5011.00
Aluminum23632.17
Austenitic steel1550.55
Quarz glass/composite0.7660.12
Titanium/gray cast iron2270.03
Plastic< 0.0580.03
Molybdenum13691.65

 

 

上記テーブルの右端のコラムは使用すべき補正係数を示しています。被計測体の材料に鋼を使用した場合の最大励起電圧がわかっているが、実際には、ひずみゲージが他の材料に取り付けられている場合は以下の数式を使用して補正係数を求めます:

 

 

最大ブリッジ励起電圧

キャリア周波数

正弦波のキャリア周波数をブリッジ励起に使用しているので、最大ブリッジ励起電圧の実効値は0.7(1/√2)を乗じた数値に軽減されます。同じ値のDC電圧よりも発熱が低いので、キャリア周波数励起は良い選択です。

多層ロゼット

多層ロゼット構造では、計測グリッドを別のグリッドの上に重ねているので、下側のグリッドより上側のグリッドは被計測体に対する放熱の度合が小さくなります。このため最大許容ブリッジ励起電圧は、2層計測グリッドのTロゼッタの場合は0.7(1/√2)、3層の場合は0.6(1/√3)の係数を乗じた分だけ減少します。

溶接したひずみゲージ

溶接により取り付けたひずみゲージは、スポット溶接部分での熱伝導が減少し、その影響で最大許容ブリッジ励起電圧が低くなる点に注意してください。

カプセルに封入されたひずみゲージ

上記で紹介した数式はカプセル化されたひずみゲージに対しても適用できます。この数式モデルはひずみゲージから被計測体への熱発散だけを考慮しているからです。ゲージまわりの空気層に対する熱発散(対流熱伝達)は無視していますので、ゲージまわりのカバーには、影響を受けません。

ラミネートタイプのひずみゲージ

ラミネートできるタイプのひずみゲージは、熱伝導が悪い環境で使用されることが多いので、ブリッジ励起電圧は可能な限り小さい電圧を使用します。

極限状態

ひずみゲージによる放熱を完全に排除する必要がある場合には、光学式ひずみ計測を選ぶことができます。ここでは、ブラッググレーティングを用いた光学式を使用して計測します。高品質の真空中あるいは絶対零度付近の極低温領域でひずみ計測をする場合は、最善の方法です。

実際の使用

まず、若干の許容最大励起電圧はひずみゲージを損傷しません。測定誤差は、主にゼロオフセットなので、単にこの点を考慮して使用します。動的計測では、無視できます。

ひずみゲージの最大実効励起電圧は、そのパッケージ上かデータシートにて指定されています。なお、被計測体の材料に合わせた値を使用することが必須 です。この値は、指定の材料が被計測体に使用されているときのみ、そのまま使用できます。実際の材料が異なる場合は、3ぺージのテーブルにある補正係数を 使用して、鋼の場合の最大励起電圧より求めることができます。

次に、最大実効励起電圧に関して述べますが、実際にアンプで使用される電圧は、かなり低い場合があります。熱の発散量は励起電圧の増加に伴い2次元的に増加するので、最大励起電圧以下である場合は、急速に誤差が最小になります。

キャリア周波数を使用するアンプを使用する場合は、実効電圧は0.7倍となるので、より安全な運転ができるうえ、測定誤差も大きく減少します。

ひずみゲージをプラスチックなどの熱伝導率が低い材料に対して使用する場合は問題になるので、できるだけ最小の励起電圧を使用し、ひずみゲージもできるだけ大きい抵抗値を持つものを使用するのが一般的です。

大体の目安としては、鉄やアルミを材料とした被計測体に対して、最小グリッド長1.5mmで電気抵抗値350Ωのひずみゲージでは、励起電圧2.5V が使用できます。この値は、最大実効励起電圧よりかなり低い値なので、通常では過熱による計測誤差は起こりません。

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