穿孔法によるプラスチック材料の残留応力分析の実験 穿孔法によるプラスチック材料の残留応力分析の実験 | HBM

穿孔法(穴をあける方式)によるプラスチック材料の残留応力分析の実験

この記事は、プラスチック成形品に対する、自動穿孔残留応力測定システムのアプリケーションについて説明します。アクセサリーが、自動計測システム Restan MTS3000  のために開発されました。非常に低速な電動モータ電子制御系から構成されています。

1. はじめに

この50年間の間、プラスチック業界は大いなる発展をしてきました。技術応用力という点でも製鉄業を凌駕する革新を見せています。伝統的な材料を替わる新合成材が次々登場する中で、その構造、人間工学的側面、生産工程において意識改革が起こっています。

プラスチック材料がこのように幅広く普及したのは、安価、軽量、扱いやすいという本質的なメリットにより希望に則した設計がしやすいという点です。したがって、正確で徹底的な機械的特性の計測がますます重要になります。プラスチック材料の機械加工の際に起きる残留応力の値を知って、研究する必要性が起きたのはこのような状況からです。

ポリマーの溶融・流動、圧力分布、不均等な温度領域、および密度分布も、ポリマー射出成形物に、残留応力を引き起こします。残留応力はプラスチック成形品の機械特性に影響し、寸法的な不安定性と環境応力割れの原因となります。また、最終形状に影響を与え、成形品の寿命を縮めてしまう可能性があります。残留応力はプラスチック成型品では一般的ですが、形状、材料、および処理パラメータを含むさまざまな変数に依存するので、応力の大きさは予測が難しい場合があります。結果としてプラスチックの部品に存在する応力評価に、信頼できる技術が重要になります。


穿孔ひずみゲージ法は、さまざまなプラスチック成形品の残留応力を計測します。それは、より小さい領域の計測をすることができる利点があります。特別なロゼットゲージをサンプルの表面に接着します、そして、穴を正確にロゼットの中心を通してあけます。表面で測定されたひずみは、穴あけのプロセスで解放される応力に対応しています。測定されたひずみと適切なモデル(すなわち、ASTM E837)を使用して、垂直方向の2軸と、それに沿った応力が計算できます。

 

2. 計測システム

穿孔システムの機械的なセットアップは図1aに示されています。これは、SINT Technology社によって開発され、HBMと共同で販売されている、統合Restan-MTS3000システムに基づいています。

図1bは200RPM未満で穴あけ可能な、特別設計の穴あけ工具を示しています。この速度は局部加熱を最小にし、材料の残留応力の分析を可能にします。ドリルの刃口が図1cに示されています。前進方向に垂直な2つの刃口があるツイストドリルです。低速の送り速度で平底の直径1.6mmの穴を掘ります。

穿孔システムは、電子制御系と制御ソフトウェアによって自動制御されており、穿孔プロセスは完全自動になっています。全体の計測装置は遠隔操作が可能: オペレータからの外的影響が計測プロセスに対して最小化できるので、このオプションをお勧めしています。

図2は、配線済みタイプの3素子ひずみゲージ・ロゼットを示しています。設置がより速くできるだけではなく、配線時の発熱がないので、望ましいタイプです。サンプルの表面に接着した、ひずみゲージの格子によって計測されたひずみ値を、基準として、テストサンプルに存在する残留応力が決定されます。

取得データは、SINT Technology社が、特にプラスチック材料のひずみ処理のために製作した、EVALソフトウェアの特別バージョンで処理されました。このバージョンはひずみ計測値を、初期の最適化多項式へ挿入して計算します。ひずみ計測はASTM837Eに準拠した方法で行われます。

図2-ロゼット:HBM K-RY61-1.5/120R-3配線済みタイプ


3. テスト手順

穿孔ひずみゲージ法をプラスチック材料に適用するとき行うべき主な操作を以下に説明します。

  • ポリマーの表面へひずみゲージを接着する際に妨げになる、あらゆる汚れを取り除くように洗浄剤で表面を掃除します。
  • ポリマーの特性に影響を及ぼさない接着剤を使用して、ポリマーの表面にひずみゲージを取り付けます。多くのアプリケーションに、シアノアクリレート接着剤が適しています。
  • 配線済みのひずみゲージ・ロゼットをできるだけ使用する。配線の溶着工程からの発熱によるポリマーの残留応力の分布への影響を排除するためです。これが可能でない場合は、裏打ちを使用して、溶着時間を最小にするようにして下さい。
  • 試料に穿孔システムを固定します。そして、穿孔軸が確実に表面に垂直になるようにします。
  • 光学顕微鏡を使用して、レチクルのクロスがちょうどロゼットのセンターになるように合わせます
  • そして顕微鏡をドリルに取り替えて、正確にロゼットのセンターに穴をあけます。
  • 決められた厚みの導体テープを、参照マーク全面をカバーしないように注意して、ひずみゲージの上にインストールします。
  • 導体テープの表面に達するまで、ドリルのカッターを進めます。 次に、もう一度ドリルを始動して、導体テープとロゼット基材を切り通すまで、カッターを進めます。このポイントが、カッター深さ「ゼロ」となります。
  • カッターがプラスチック表面に接触した状態で、信号が安定するまで、十分な時間(遅延時間)を待った後に、各ひずみゲージの計測値を記録します。
  • 送り速度、最大深度、穿孔ステップの数、および自動システムの遅延時間を設定します。通常、穴は、ASTM E837標準の条項に従って、約0.05mm単位の深さステップで、あけられます。
  • 3つのひずみゲージ測定値と穴の深さは、それぞれのドリルステップに記録されます。
  • ドリルシステムを顕微鏡に取り替え、垂直な2軸に対し4か所の調整を行いながら穴径と偏心率を測定します。

3.1 表面処理と接着

ゲージの設置に使用される、溶媒と接着剤に対する各プラスチック材料の化学親和力は、分析し、正しく使用する必要があります。不適切な接着剤は、分析中のひずみゲージやプラスチック部品を、実際に、破損する場合があります。表面を清掃するために、機械的な表面処理をしてください。

一例として、表1にプラスチック材料上にひずみゲージを正しく設置するための条件を示します。

3.2 接触深さ(ゼロ設定)の決定

穿孔法で残留応力を正しく計測するには、開始深度の決定が重要になります。
このポイントは、金属素材への電気的接触で決定します。MTS3000システムは、カッターがひずみゲージ・ロゼットのポリアミド基材を切った後に、プラスチックの表面に達したとき、自動的に、ドリルを止めます。

プラスチック材料は、導電性がないので、ゼロポイントを電気的接触で決定できません。それにもかかわらず、「ゼロ」ポイントを決定するには、いくつかの方法を使用できます。

本質的に、以下のどちらかが可能です:

  • プラスチックの切断(図3:左)が始まった時に、手動でカッターを止めて、そこを深さ「ゼロ」とする。または、
  • 特種なアルミニウム粘着テープを使用して、自動的に決定します。「ゼロ」ポイントがいったん決定すると、ひずみゲージ・ロゼットと特別なアルミニウム・テープの合計厚さと等しい距離に従ってシステムを調整する必要があります。(図3:右)

4. 運転パラメータの決定

プラスチック材料の残留応力の計測に穴あけ法を適用する場合、プラスチック材料と金属素材では、異なる面があります。プラスチック材料では、弾性係数が低いので、同じ荷重をかけたとき測定されるひずみは、はるかに高くなります。そして、プラスチックは、材料切削により敏感です。ひずみ測定値を取得する際は、カット速度、送り速度、および遅延時間を適切に選択されなければなりません。

4.1 ドリルの回転数

ドリル速度は確かに、穿孔法によるプラスチック残留応力の計測に最も影響を及ぼすパラメータの1つです。空気タービン式の高速ドリル(通常、金属素材の残留応力計測に使用されるテクニック)は、発熱により、プラスチック材料が溶けるうえ、ひずみゲージが接着してある部分が温度上昇するため、適用できません。

一例として、図4aは高速穿孔システムが空気タービンを使用してプラスチック材料に作った穴を示しています:穴の周りのプラスチック材料が溶けているのがよくわかります。圧搾空気圧を下げて、空気タービンをより低速にすると、この現象を少なくすることはできますが、完全に排除はできません。

したがって、カット速度非常に低くなければなりません。図4bでは、プラスチック材料の残留応力計測のために設計された、低速ドリルシステム(200RPM未満)で作られた穴の品質を見ることができます。

4.2 送り速度

プラスチック材料は機械的ストレスに非常に敏感であるため、様々なドリルテストは最適な送り速度を決定するために行われました。

試験結果は、ドリル工具が穿孔後の不安定化している時間を短縮するために、よりゆっくり進められなければならないことを示しました。送り速度を低下させる事は、残留応力を計測する時間を増やすことを意味します: この2つの局面間の正しい妥協により、プラスチック材料の穿孔最適速度を決定することができました。

表2は穿孔にかかる時間と各送り速度での平均安定化時間の分析です:最も良い妥協点は0.1mm/分の送り速度で達成されます。

4.3 遅延時間の選択

試料の穿孔後は、熱的、機械的にバランスの取れた状態に試料が戻った時点(遅延時間後)で、初めてひずみ計測値を取得できます。実験では、熱平衡(穿孔プロセスより影響を受ける)は、わずか数秒の遅延時間後に達成できていることがわかりました。

試料が機械的バランスに達する時間を評価するために、プラスチック材料を穿孔するプロセス全体で、ひずみの傾向を計測する実験が必要です。

HBM製の QuantumX アンプと catman acquisition software を使用して、ドリル穿孔作業全体に渡りひずみの傾向を計測することが可能になりました:結果は図5に示すように、穿孔プロセスの間は機械的に不安定であり、システムが安定性を回復するには約90秒かかることがわかりました。十分な遅延時間経過後に計測した数値で、それぞれのひずみゲージ格子の、通常ひずみ対深さを表すカーブが観察できます。カーブは0.2mm/分の送り速度で行ったテストで取得されたデータです。

また、同じ実験を金属素材の穿孔でおこないました: 鉄鋼とアルミニウムでの結果は、システム特有の挙動でしたが、より速い安定化時間 3-5秒を示しました。図6と7では、金属素材(鉄鋼)プラスチック材料(ポリカーボネート)の中で詳細にひずみの傾向を観察できます。

4.4 プラスチック部品における温度変動の検証

穿孔システムがいったん設計されると、穿孔プロセスでのプラスチック(ポリカーボネート)部品の温度が計測されました。次に、2mm深さの穴を作り、タイプK熱電対が、穴からひずみゲージと同じ距離にインストールされている状態で、(格子2またはBの反対側で)温度を収集しました。

図8: 穴の深度VS温度を示しています。穿孔ステップ間の遅延時間は20秒で、送り速度は0.2mm/分(鉄鋼などの金属素材テストの標準速度)を、使用しました。

結果は、穴あけ工具がひずみゲージ格子に過剰加温を発生させないことを示しています。温度変動の最高値は、穿孔ステップの最終段階で、1℃未満です。

さらに、遅延時間の間、部品温度が急激に初期温度に戻ることが観測されました。事実上、20秒以降に、温度が初期値に戻るのがわかりました:初期の温度と比較して測定された最大変動は、0.24℃です。

5. 実施したテストと結果

ポリカーボネート製の家電製品の部品をテストしました。ヤング率: 2650MPa、ポアソン比:0.37、引張強度: 80MPaが、この材料で使用されました。

以下の試験条件が自動計測システムのために採用されました:

  • 最大深度: 2mm
  • 穿孔ステップ: 0.05mm
  • 以下の穿孔ステップ数: 40
  • 穿孔ステップ傾き: 直線
  • 送り速度: 0.1mm/分
  • 遅延時間: 90秒
  • ひずみゲージ・ロゼット: HBM K-RY61-1.5/120R-3 配線済み3線式
  • HBM Spider 8.30 ひずみゲージ・アンプ

計測点3ポイントを設定。位置が図9に示されています。図10で穿孔ステージ2台を見ることができます。

一例として、図11は測定ポイント1で得られた残留応力の計測の結果を示しています。グラフはひずみのトレンド、主応力、およびα角を示しています。(ASTM E837標準の条項に準じて計測されました)。同様の結果を他の測定ポイントで得ましたが、説明を簡潔にするために、ここでは述べません。

 

 

図11a:ひずみ対深度図11b:均一性試験(ASTM E837-08)
図11c:主応力と理想応力対深度図11d:α角対深度

6. まとめ

プラスチック材料の残留応力計測における自動システムの使用は、実際、手動や高速穿孔法では信頼性の高いデータが得られません。

射出成型プラスチック部品に穿孔法を適用する際に最適な穿孔プロセスひずみデータの収集方法が明らかになりました。ひずみゲージは外部要因への感度が高いことから、今回のような遠隔操作による自動穿孔・データ収集システムは極めて効果的であることがわかります。