Data Acquisition on a 7 Second Dragster Data Acquisition on a 7 Second Dragster | HBM

トンプソン氏は、試験技術者としての長いキャリアから、データ取得が部品性能やシステム全体の信頼性を改良するのに、決定的な役割を果たす事を知っています。 レース工学に、彼の専門的技術を応用しました。重要な計測を行うために、トンプソン氏はHBMのSoMat eDAQliteデータ収集システムを全面的に採用しました。

トンプソン氏がeDAQliteを選んだ理由の1つは、正確なデータを提供するだけではなく、コンパクトなのでドラッグレース用自動車の限られたスペースにピッタリと搭載できるからです。 「各構成要素が本当にどう働いているのか」に関するトンプソン氏の知識を、eDAQliteから得られたデータに組み合わせて、レース車両の経過時間(ET)の一貫性、安全、信頼性を改良する事が可能になります。

さらにeDAQliteはレースに、一般的に使用される他のデータ収集システムができないことを行えます。例えば、データ収集システムの大部分は、最大サンプルレートが100サンプル/秒ぐらいですが、eDAQliteは最大10万サンプル/秒です。 その上、HBM eDAQliteは、全米ホットロッド協会(NHRA)選手権ドラッグレースシリーズのスポーツマンクラスに採用されている、数少ないデータ収集システムの1つです。

7秒ドラッグレースでの超高速データ取得

農業用トラクタでは、早い速度は出せません。少なくともレイ・トンプソン氏が、満足できる速度ではありません。

トンプソン氏は、技術者として35年間の経験があります。試験技術者として、主にジョンディア・トラクタ社の信頼性と安全性を改良するための、テストシステム開発と不良解析をして来ました。 もっとも、彼の本当の情熱はドラッグレースに注がれてきました。 彼は12秒市販車クラス、9秒シャーシ車クラス、および7秒ドラッグスターの競走に参加してきました。 ジョンディアから引退後、トンプソン氏は車両力学と故障解析に関する彼の知識をドラッグレース・スポーツに適用するためにThompson Engineering & Racing社を開設しました。

最終的に、トンプソン氏はHBMのSoMatの使用経験が長いので、eDAQliteを選択しました。 その理由は、1980年代よりSoMat製品を使用しており、常にSoMatは精度が高く信頼できる事が分かっていました。また、問題が起きたときは、HBMの技術サポートが迅速に対応してくれた実績を評価したからです。

プロジェクトの開始

最近、トンプソン氏は、7秒ドラッグレース用の自動車エンジンの始動をしやすくし、また、時々起きる「キックバック」を避けるプロジェクトを始めました。 このプロジェクトを完了するために、トンプソン氏は、いくつかのエンジンパラメータ(最も重要なのはエンジンの始動回転速度)を、高速で高精度に計測することにしました。

エンジン速度を記録するために、通常イグニションシステムからのタコメーター出力信号をデータロガーに接続します。この出力信号はクランク1回転あたり4パルスで、これはほとんどのアプリケーションで十分な分解能です。

しかしながら、エンジンの機械的な状態をチェックするためには、より詳細な情報を必要とします。 このアプリケーションのために、トンプソン氏はフライホイールに接続された速度ピックアップセンサを使用しました。 このセンサは、フライホイール上の歯を測定して、クランク1回転あたり168パルス検出します。 サンプルレートは毎秒200サンプルに設定されています。 図1は、上記の2つの計測方法の結果を比較したものです。

図2のプロットは、ドラッグレース用の548立方インチのV8エンジンの、エンジンの始動速度(クランキング速度)を2秒間計測した結果です。エンジンの圧縮比は15:1です。 始動速度は平均で150rpmですが、パワーストローク時は約225rpm、圧縮ストロークのときに約85rpmほどになります。

150rpmのクランク速度では、クランクシャフトは1秒あたり2.5回転します。 図2のプロットが示すように、4サイクルのV8エンジンでは、1秒間にパワーストロークが、10回あります。

シリンダ間の変動を比較するのに、このプロットを使用することができます。 シリンダの「ポンピング」性能に影響する機械的な問題が発生した場合は、クランクのrpmの変化として現れます。 定期的に、エンジン始動時のエンジン速度を記録して、各シリンダの速度変動のプロットを比較すると、エンジンの機械的状態をチェックすることが容易にできます。

多くの経験豊富なレーサーは、エンジン音を聞くだけで、不調なシリンダがあるかどうかを判断できます。 エンジン始動時の速度を計測して、その結果を図1のようにプロットすると、経験豊富なレーサーが音で判断してきたことを、図で確認できます。

死んでいるシリンダを特定

この現象を明らかにするために、トンプソン氏はエンジン始動速度計測(クランキング速度計測)を2種類のモードでおこないました。 最初のモードは、エンジンを通常運転した状態で計測をしました。 2番目のモードでは計測をする前に、スパークプラグを1個取り外し、死んでいるシリンダを設定しました。

図3は、これらの2つのモードのデータを重ねて表示したものです。 赤線は通常のエンジン運転を示していますが、青線は、死んでいるシリンダが1個ある状態での運転です。 死んでいるシリンダがTDCに近づくと、通常の運転では速度低下になりますが、ここでは逆にエンジン速度が増加することに注目してください。 これは空気圧縮からくる抵抗がないためです。 また、死んでいるシリンダがあるエンジンには、平均の始動速度が約10rpm高くなることに注意してください。 これが、2つのデータのプロットが、きれいに重ならない理由です。

エンジンの性能を分析する、もう一つの方法は、エンジン速度信号の周波数解析を実行することです。図4はこの分析のプロットを示しています。最も重要な周波数成分は10Hzです。 これは8シリンダ、4ストロークエンジンを150rpmで運転した時の発火頻度と同等です。 クランク軸1回転あたり4回起こるので、4次効果と呼ばれます。2番目に重要な周波数成分は20Hzです。 この周波数成分は8次効果であり、エンジンの8個のシリンダの運動に関連しています。クランク軸速度がそれぞれのシリンダを圧縮する間は遅くなるので、この現象が起こります。これらの力学的変動は正常な現象ですが、フライホイール/トルク変換器アセンブリに、より大きいイナーシャを加えることによって減少できます。調査の結果、トンプソン氏は、平均150rpmのエンジン始動速度は、遅過ぎるであろうという結論に達しました。 この速度を上げるいくつかの方法があります:

  • より強力なスターターモータを使用
  • バッテリ電力を増加
  • より太いバッテリケーブルを使用して、電圧降下を避ける
  • バッテリ/スターター間に、しっかりとしたグランドを確保

キックバックを避ける

最終的に、トンプソン氏の課題の1つは、「キックバック」の可能性を減少させることです。レースエンジンでは、始動速度(約150rpm)の低さ、大きいシリンダ容量、高圧縮率、市販のエンジンより早いエンジンタイミングなどが原因で、キックバックが起こります。 このため、シリンダが爆発する時、クランク軸が後方に回る可能性があります。つまり、フライホイールの歯がスターターモータ小歯車に衝突して、ギヤの歯が損傷する可能性があります。

上に記載されたパラメータを調整して、キックバックを防ぐ事ができますが、エンジン出力が減少することがあります。 経験とデータ分析からトンプソン氏は、イグニションシステムをオンにする前にエンジン始動速度を最大にして、イグニションタイミングを1~2度後ろにずらすと、キックバックの数が大きく減少することを発見しました。

ドラッグスターでのトンプソン氏の成功の秘訣は、SoMat eDAQliteにあることは明確です。 このコンパクトで、強力なデータ収集システムで獲得したデータは、まさしく、より速いドラッグスターを追求するためには欠かせないツールとなっています。

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