HBM Perceptionソフトウェアの空間ベクトルによる電気エネルギー技術の計測量の計算と表現 HBM Perceptionソフトウェアの空間ベクトルによる電気エネルギー技術の計測量の計算と表現 | HBM

HBM Perceptionソフトウェアの空間ベクトルによる電気エネルギー技術の計測量の計算と表現

概要

空間ベクトルは、電気エネルギーを変圧器やインダクションモータなどに変換するシステムの計測量を、明確に表現する手段としてよく使用されます。時間依存している空間ベクトルが複素平面上の軌跡カーブとして表現される場合は、エネルギー変換器の作動状態に関する情報が得られます。さらに計測量の表現を簡素化するために、回転座標系に空間ベクトルを使用できます。本文は、永久磁石同期モータの例を使用して、Perceptionソフトウェアで異なる座標系の空間ベクトルを表現する方法を説明します。

1. はじめに

図1.1のような3相ドライブを持つエネルギー関連のシステムの計測は、様々な物理量を記録、保存、調整しなければなりません。Genesis HighSpeedデータレコーダ (ジェネシスハイスピードデータレコーダレコーダ)は、高速サンプルレート[1]の多チャンネル方式で、エネルギー関連システムの重要な全物理量を同期しながら収集できます。特に、三相交流システムや三相システムを発生させるシステムでは、計測値を表現するのに空間ベクトルを使用するとわかりやすく図式化できます。また、空間ベクトルは定常状態とダイナミックなバランスのとれたプロセスを表すのに使用できます。この論文では、まず空間ベクトルを定義する方程式と異なった座標系への変換方式に関して説明します。次に、永久磁石使用の同期モータ(PSM)の物理量を、空間ベクトルを使用して表現する方法を説明します。Perceptionソフトウェアのワークベンチは、個別にこの方法を試すときに使用できます[3]。

2. 空間ベクトル

K.P.Kovacsは、1959年に三相システムの数学的解析を容易にするために空間ベクトル理論を開発しました。それは、インダクションモータの制御方法を説明するのによく使用されます[4]。三相システムの電気と磁気の物理量は、二相の直交座標と一定の条件の下で存在しているゼロシーケンスシステムに分解できます。そして、二相の直交座標は空間ベクトルに指定される複素数として解釈できます。この複素数の実数部と虚数部は、複素平面のα軸とβ軸上にベクトルとして表示される複素数の投影値に対応しています。

方程式1.01は、3軸の変数のx1、x2、x3から複素空間ベクトル    を計算する方程式です。
 


αは複素数の回転演算子です。対応するゼロシーケンスシステムは、次式によって計算されます。
 

 
 

図2.1a は、直交した座標系の空間ベクトル    を示している。

空間ベクトルの実数部は横軸α、虚数部は縦軸βの上に現れます。この図では、座標(α、β)は静止しています。ベクトルの大きさは、120°回転したときの、空間ベクトルをa、b、c軸に投影することによって得られます。

図2.1: 複素平面での空間ベクトルの表記、 a)座標上でα、βが静止している場合、 b)回転座標上での表記


Perceptionソフトウェアは、三相の物理量(x1,x2,x3)を空間ベクトル量に変換するための関数を事前に定義できます:

また、Perceptionソフトは、空間ベクトル量から対応する2次元ベクトルの大きさを計算するために、逆方向の変換をする関数を提供します:

様々な変換パラメータの意味は、Perceptionソフトに演算が入力された時に使用できるオンラインヘルプで明確に説明されています。

これらの変換機能を使用して、空間ベクトルドメインで計算を実行できます。そして、計算の結果はベクトルの大きさ(ライン量)として表示できます。

もし空間ベクトルが回転座標系に表記できるなら、結果が明確になるだけでなく演算時間の節約になります。ここまでは、α軸とβ軸が静止した座標について説明してきましたが、次に、元のα,β座標系と比較して、時間依存している角度γ(t)だけ回転した、d,q座標系において空間ベクトルを考えます。空間ベクトルが極座標で表現できるなら、変換ルールの誘導は簡略化されます。静止座標の空間ベクトルは、以下のように極座標で表示できます:

 

 

 また、図1.1b)で示すように、この空間ベクトルは、d軸とq軸を持つ回転座標で表現できます。上付き文字のRは、空間ベクトルが回転座標で表示されていることを示します。極座標表示では、量は異なる座標系でも変化しません。角度だけを調整する必要があります。

 

空間ベクトルは、回転演算子ejγで掛けることにより、ある座標系から別の座標系に変換できます。

回転する空間ベクトルの構成要素を計算するのに、オイラーの公式ejγ=cos(γ)+j sin(γ)が使用できます。

Perceptionソフトは、3個のベクトル量x1,x2,x3を回転する空間ベクトルに変えるために以下の関数を提供します。

アプリケーションによって、変換に必要な角度γは、位置エンコーダの読み値か計算値を使用します。
 

 

3. 永久磁石を使用した同期モータ

異なった座標における空間ベクトルの使用は、永久磁石使用の同期モータの例に基づいて説明します[4]。モータの解説を簡単にするために、等方性の同期モータについて考えます。 これは、磁場は方向の如何にかかわらずモータ内に広がることを意味します。 図3.1a)は、表面実装したPMSMです。このタイプのモータは、ほとんど等方性であると考えられます。このモータのポールペア数はp=2です。広く適応可能なモータで解説にするために、実際のモータはポールペア数がp=1であるモデルで説明します。図3.1bに示したPSMの簡単な空間ベクトルモデルを使用した解説が可能です。このためには、機械的速度nと電気の周波数fとの相関関係を考慮に入れます(次式1.10参照)。
 

 

図3.1: a) PSMの基本的なレイアウトと、b) PSMの空間ベクトルモデル


位置エンコーダが同期モータのシャフトに設置されている場合、空間ベクトルの変換に必要な角度γのオフセット角γ0とポーラペアの数pが計算できます。以下の関数(1.11)は、

Perceptionソフトによりで定義され、この計算目的に使用されます。オフセット角γ0は、ローターの北極と位置エンコーダの零点位置の間の機械的なオフセットを考慮に入れています。

無負荷試験が、オフセット角γ0を決定するのに使用されます。 これを行うためには、同期モータをシャフトによって機械的に回転させます。 図3.2は、スター電圧u1(時間と位置エンコーダからの機械的角度γmechの関数)を示しています。オフセット角γ0は、電圧u1のネガティブスロープのゼロクロスと位置エンコーダの零点位置の間の時間オフセットから決定できます。
 

図3.2: スター電圧u1の時間依存したカーブ、機械的角度γmech、および電気的角γ

 

無負荷試験で引き起こされたスター電圧は、図3.3に示されています。電圧の振幅が等しく、電圧間の位相オフセットが120°である場合、これらの3つの正弦波電圧が対称三相システムを形成します。この三相電圧に属す空間ベクトルの要素(uα、uβ)は、時間の関数として図3.3aに示されています。対称な電圧システムの場合、90°のフェーズシフトが空間ベクトルの要素(uα、uβ)の間で確立されます。

空間ベクトルの構成要素をxyプロットで表すと、図3.3bに示されているように電圧の空間ベクトルのピーク値は円を描きます。カーブの軌道が理想的な円から外れる場合は、一目で3つの電圧が対称な三相システムを形成していないことが分かります。
 

 

図3.3: a) 空間ベクトルの構成要素uα、uβの時間依存しているスター電圧のカーブu1,u2,u3, 
b) 電圧空間ベクトルの軌道

 

ここで、電圧空間ベクトルの構成要素のuαとuβを、要素udとuqを持つ回転座標系で表示するなら、時間に対して変化するこれらの量は、一定量になります。対称な三相システムの要素のudとuqは図3.4に示されています(一つは時間の関数として、もう一つは複素平面で)。対称な三相システムは、同じ長さの静止したポインタとして複素平面に表されます。
 

図3.4: a) 電圧空間ベクトルの要素ud、uq、の時間依存カーブ、 
b) 回転座標系の電圧空間ベクトルの時間依存カーブ

まとめ

このレポートは、GenesisハイスピードデータレコーダとPerceptionソフトウェアを使用した空間ベクトルの計算を伴う信号処理について述べています。Genesisハイスピードデータレコーダからの生データを基に、異なる座標系での空間ベクトルを計算するための変換法則について説明しました。同期モータにおける無負荷試験の例に基づいて、座標系を説明しました。ここではPerceptionソフトによる空間ベクトルのいろいろな表示方式を使用しました。さらに詳しい実用的なテストやエネルギー技術における空間ベクトルの計算方法に関しては、HBMはPerceptionソフトを使用したWorkbench(ワークベンチ)を提供しています[3]。

参考資料

[1]    D. Eberlein; K. Lang; J. Teigelkötter; K. Kowalski: Elektromobilität auf der Überholspur: Effizienzsteigerung für den Antrieb der Zukunft [Electromobility in the fast lane: increased efficiency for the drive of the future]; proceedings of the 3rd conference of Innovation Messtechnik [Innovation in Measurement Technology]; May 14, 2013
[2]    Berechnung von Leistungsgrößen mit Perception-Software
[Calculating power values with Perception software] https://www.hbm.com/de/3783/berechnung-von-leistungsgroessen-mit-perception-software/
[3]    www.hbm.com
[4]    J. Teigelkötter: Energieeffiziente elektrische Antriebe [Energy-efficient electric drives], 1st edition, Springer Vieweg Verlag, 2013; ISBN 3-8348-1938-3