データレコーダGen3iを使用して、簡単に永久磁石モータの逆起電力電圧定数を検証 データレコーダGen3iを使用して、簡単に永久磁石モータの逆起電力電圧定数を検証 | HBM

データレコーダGen3iを使用して、簡単に永久磁石モータの逆起電力電圧定数を検証

永久磁石モータ(PM)の試作品を直ちに分析したいときに、モータのパラメータを検証する必要があります。パラメータの検証は、インバータと駆動モータ(DM)を使用した複雑なテストを実施する方法のほか、インバータと駆動モータを使用しない簡単な方法があります。この論文は、 HBM データレコーダGen3i によりモータの逆起電力電圧定数を迅速に検証する方法を紹介します。この方法は非正弦波モータの場合でも、モータを手で回転させるだけで非常に良い結果を得ることができます。

永久磁石(PM)モータは、他のタイプのモータに比べトルク密度と効率が高く省エネルギーなため、可変速ドライブ(ASD)のマーケットでシェアを拡大し続けています。具体的には、電動機、自動車、再生可能エネルギーによる発電、電動式の移動体、コンプレッサ、電気モータ航空機、家庭用電化製品などに使われています。アプリケーションの要件を満たすために、様々な新型PMモータが開発されていますが、ロータ設計の観点から、最も多く採用されているPMモータは表面実装型PMモータ、内部実装型PMモータ(単層と多層ロータ)、インセットPMモータ、磁束集中型PMモータなどです

モータ制御の詳細を分析するには、先ずモータパラメータを知る必要があります。モータ制御に使用されるモータパラメータは、通常、以下の通りです: 固定子抵抗、固定子インダクタンス、および磁束鎖交(または、逆起電力定数)です。異なる回転子位置での配線間インピーダンスの計測または短絡試験を通して、固定子の抵抗とインダクタンスを得ることができます。磁束は、通常、無負荷試験(本文では従来方式)によって得ることができます。この場合は、駆動モータ(DM)で試験対象のモータ(MUT)を回転させます。磁束はモータの端子で計測する誘導電圧から計算されます。

この論文は、HBM データレコーダGen3iを使用することでPMモータの磁束を検証する非常に簡単な方法を提案します。従来方式と比べ、この方式はDMを必要としないうえ、非正弦波タイプの逆起電力電圧を持っているPMモータに応用できます。

ここではまず最初に、従来方式をセクションIIで説明し、次に、提案の新方式をセクションIIIで分析します。セクションIVで、この論文の結論を述べます。

逆起電力定数を検証するための従来方式の無負荷試験

従来方式の無負荷試験においては、電力変換装置と速度制御されたDMにより、MUTは等速で駆動されます(図1参照)。

図1: 従来方式のセットアップ

正弦波タイプの誘導電圧を想定して、rmsライン間電圧とモータ速度ωmをMUT端子で計測します。磁束は以下の式で計算されます:

 (1)

ここで、pはMUTポールペアの番号です。

この方式は簡単ですが、以下の欠点があります:

  • Ÿ   モータが非正弦波タイプの逆起電力電圧を発生する場合、演算による磁束は基本成分のみに関連するため値が不正確になります。

  • Ÿ   速度が一定でない(MUTロータシャフトの非理想的な速度調整、そして/または、偏心による)と、電圧は変動します。

 

2で説明されるように、データレコーダGen3iを使用することによって、非理想的な計測条件でも計測可能です。

図2: HBM Gen3iデータレコーダを使用して従来方式を実施

データレコーダはMUTの中性点で、位相電圧を直接計測します。中性点が利用できない場合はライン間電圧を計測します。 等速でMUTを回転させると、Gen3iは十分な電気情報を含む時間データフレームを収集します(図3参照)。

図3: モータ電圧(左)とこの電圧(右)のズームを含む長いデータフレーム(約2秒)

図3からわかるように、誘導電圧は正弦波ではないので、たんなるrms値の計測では磁束の計算に誤差が生じます。磁束を適切に計算するために、空間ベクトル法を採用します。まず最初に、三相電圧(va、vb、vc)は、固定座標(α、β)で二相に変換できます:

(2)

電圧成分(α、β)は図4aに示されています。これらの電圧は、磁束成分(α、β)の時間に関する導関数です。したがって、磁束成分は、以下に示す簡単な積分式を使用してGen3iで計算できます:

(3)

図4bに示されているように、電圧成分と磁束成分(α、β)は、電気周波数に等しい角周波数ωで(α、β)座標上を直交状態を保ちながら回転する逆起電力ベクトルと磁束スベクトルとして表現できます。

図4:(α、β)座標での電圧ベクトルと磁束ベクトル

磁束成分を得るためには、電圧の積分が簡単です。しかしながら、電圧計測でのわずかなオフセットにより磁束ドリフトが発生する可能性があります。さらに、図5が示すように、積分の開始ポイントによっては、磁束はゼロでない平均値を持つ場合があります。Gen3iは、電圧(α、β)に対して、適切にそれぞれの電気サイクルを検出できます。磁束の平均値(各サイクル単位で計算される)を積分の結果(図5の右)から引き算すると、図6が示すように、磁束は平均値がゼロとなるac量になります。

時間フレームの初期部分を除いて、磁束成分(α、β)は正弦波に近い物理量になっています。求める磁束鎖交は、磁束ベクトルの大きさの平均値(図4b参照)そのものです:

(4)

平均値を計算する時間間隔は、獲得したフレームから適切に選ぶ必要があります。

図5: 電圧の積分結果(左)と各サイクルに対する演算された訂正値(右)

最終的な磁束成分(α、β)と磁束ベクトルの大きさは図7に示されています。磁束の最終的な値は以下の式で得られます

λm= 23.866 (mVs)   (5)

 

図6:磁束成分修正(左)と最終的な磁束成分(α、β)(右)

図7: 最終的な磁束成分(α、β)と磁束ベクトルの大きさを表す磁束

提案の方式

積分値はモータ速度に依存しないので、どんな速度にたいしても(たとえ速度が一定でなくても)有効です。この理由で、ここで提案する方式は、MUTを回転させる特別なモーターを必要としません。図8に示されているように、MUTを手で回転させるだけで、Gen3iが1個の長いフレームに含まれる電圧データを記録します。位相と電圧(α、β)が、図9に示されています。

 

 

図8: 提案の方式: Gen3iがMUT端子で誘導電圧を計測している間、MUTを手で回転させます

 

 

図9: (左)MUT位相電圧を含む長いフレームでのデータと電圧成分(α、β)の計算値(右)

 

 

図10: 磁束成分の修正値(左)と最終的な磁束成分(α、β)(右)

電圧の積分と磁束成分の修正は、前項で説明されたように実行されます。磁束の計算は以下の式で行えます:

λm= 23.865 (mVs)   (6)

容易に解るように、磁束の計算値は、実際上従来の無負荷試験を使用して計算された値と同じです。これは、DMは必要でないことを示しています。

結論

PMモータの試作品を迅速に検証するには、モータ制御で必要なモータパラメータが必要です。この論文は磁束鎖交(逆起電力定数)の検証に焦点を合わせています。従来の無負荷試験では、MUT(試験対象のモータ)を等速で回転させる駆動用のモータが必要です。この提案方式は、駆動モータを使用しないでMUTロータを手で回転させるだけで、モータ磁束を計測できます。HBMデータレコーダにより、積分のプロセスで電圧の積分におけるオフセットを適切に修正することにより、容易に磁束を得ることが可能になります。

Authors

  • R. Bojoi
  • E. Armando

Politecnico di Torino, Dipartimento Energia
Corso Duca degli Abruzzi 24, 10129, Torino, Italy