技術解説: ひずみ応力解析における計測精度 - パート3

応力解析において、様々な手法で計測誤差を補正できるひずみゲージ式計測技術は、過去何十年もの間に改良が進んできました。それでもなお、計測に悪影響を与える要因は残っています。本稿の目的は、ひずみゲージを応力解析に使う際の誤差要因(通常、回避可能な場合が多い)をとりあげ、準備の初期段階で不確かさを推定する方法を紹介します。

ゼロ点非固定式の計測における不確かさの推定

この計測方式の重要なポイントは、計測結果を分析する際に、ゼロ点が不要であることです。それはこの方式が、変化量だけを対象としており、計測中にゼロ点が全く変動しない(比較的短い期間の計測試験の場合)からです。例えば、衝突試験、引張試験など短時間で完結する荷重試験が挙げられます。

負荷を加えた後の材料の変化とひずみゲージのクリープは、ゼロ点非固定式の計測では重要な場合があるので、このセクションで解説します。逆に、熱膨張、接着剤の膨張、絶縁抵抗の低下、ひずみゲージの温度応答性、ひずみゲージの劣化などの現象は、ゼロ点非固定式の計測においては、ほぼ無関係です。

もちろん、計測点に障害が起きている場合でも、短時間なら絶縁抵抗の荷重試験中に値が劇的に低下することは通常はありません。

弾性係数の許容値

弾性係数(メーカー仕様)は、その許容値が数パーセントの場合もあり、不確かさの原因になります。適切なテストラボで正確に弾性係数を決定することは、コストがかかり実施できない場合があります。

応力計測もしくは、応力解析(ESA)と呼ばれる計測では、弾性係数の相対的不確かさは同じ量的スケールで、機械的負荷に応じた不確かさをも生みます。

これは、ある材料に5%の不確かさを持つ弾性係数がある場合、その材料の機械的負荷は、この要素だけで5%の不確かさを持つことを意味します。

また、弾性係数には温度係数(TC)があるので、温度にも依存します(鉄鋼 ≈ -2x10^-4 /K )。弾性係数の相対的変化は製品から発生します:

これが同じ大きさの機械的負荷の不確かさになります。

例: 23℃での鉄鋼の弾性係数を使用して、計測を33℃で実行する場合は、弾性係数は0.2%小さくなります。この温度効果を演算補正しないと、弾性係数の許容値に0.2%を加えた誤差が発生します。しかし弾性係数のTC自体が温度に依存していることに注意してください。これは温度効果は完全には補正できないことを意味しています。

演算式に使用されている記号の説明

計測対象の曲げ半径は、曲げモーメントを引き起こす負荷(ひずみの増加)に依存


  図7:曲げモーメントがかかる部品上に設置されたひずみゲージ

ひずみゲージが計測グリッドに沿って縦方向に曲がる部品上に設置されている場合は、計測グリッドのひずみと部品表面の真のひずみの間に誤差が生じ(図7)、得られる計測値が過大になります。曲げ半径が小ければ小さいほど、部品表面から計測グリッドまでの距離が大きくなり、影響はより大きくなります。

また、ひずみゲージが凹面に設置されている場合でも、計測値は同様に過大になります。計測誤差の原因は同じです。また、これは以下の方程式が示すような誤差をもたらします:

計測グリッドから部品の計測表面までの距離が 100 μm で、曲げ半径が 100 mm の場合は、ひずみ値の増加量は現在のひずみ値の1/1000です。この例では、真のひずみ値は計測されたひずみより0.1%低い値です。これは、負荷値が0.1%だけ過大に計測されることを意味します。この計測誤差は、曲げ半径が小さい時にだけ起こります。

弾性変形の影響

多くの材料では、それ自身への機械的負荷がなくなった後でも(初期ひずみ値)、材料のひずみは増加し続けます。この現象は、約30分間(23℃の鉄鋼の例)続きます。また、負荷が取り除かれた場合も、同様の現象が起きます。 これによる追加ひずみの初期値に対する割合は材料特性に大きく依存します。この追加ひずみは計測誤差の原因となります。ひずみ値を取得するときだけに起こるので、多くの計測タスクでは、この誤差をほぼ完全に避けることが可能です。

しかしながら、負荷をかけ長時間経過してから計測する場合は、材料のひずみ値が1%(初期ひずみ値と比較して)増加していると、その物質のひずみの計測値は1%に過大になっています。

ひずみゲージの位置決め不良

ひずみゲージが材料の負荷方向(一軸応力状態)に沿って正しく設置されていない場合は、マイナス方向の計測誤差が生じます。そのため計測されたひずみ値は、材料の真のひずみ値より小さくなります。相対的なひずみ誤差は以下のように決定されます: 

アライメント誤差が5度、ポアソン比0.3(鉄鋼)の場合は、ひずみ誤差は、-1%になります。したがって、実際の材料の計測値より1%大きくなります。

ひずみゲージのクリープ

ひずみが材料に加えられた後に、ゲージの計測グリッドにはいくらかクリープ戻りが起きます。この部分は、主として接着剤の特性とひずみゲージの幾何学形状(短い計測グリッドでは影響が大きいが、逆方向に非常に長いひずみゲージはクリープがない)で決定されますが、温度にも依存しています。クリープの影響後では、計測グリッドのひずみは実際の材料ひずみより小さくなります。応力解析によく使用されるひずみゲージ(計測グリッドの実効長6mmのHBMタイプLY11-6/120)に対して、接着剤Z70(HBM製)を温度23℃で使用した場合は、1時間以内に約0.1%のクリープ戻りが生じます。これは計測された負荷に対して、-0.1%の相対的計測誤差があるのと同じです。もちろん、計測値を負荷直後に決定した場合は、誤差はより小さくなります。負の値なので、ひずみゲージのクリープは、弾性余効に対して少なくとも部分的に補正され、通常、応力解析では完全に無視されます。しかしながら、他の種類の接着剤をより高い温度で使用するときには注意してください。例えば、70℃で接着剤X60(HBM製)を使い2000 μm/m のひずみが生ずる場合、1時間後に起こる誤差は-5%です。

ひずみゲージのヒステリシス

同様のことがヒステリシスにも適用されます: 計測グリッドが短い場合は、重要になる傾向があり、接着剤も影響します。接着剤Z70が使用された場合にだけ、±1000μm/mのひずみに対して、ひずみゲージLY11-6/120のヒステリシスは0.1%のみで、無視できるレベルです。

しかし、計測グリッドの有効長が0.6mmである短ゲージ(LY11-0.6/120)を使用する場合は、ヒステリシスは増加し、ひずみ計測の不確かさは1%になります。

ゲージ率

ゲージ率の許容値

ここでは計測チェーンがゲージ率の公称値(ひずみゲージのパッケージに記されている)に対して正確に調整されていることを前提にしています。 ゲージ率はひずみの変化と相対抵抗値の変化との相関関係を表す定数です。 ゲージ率はメーカーで実証的に決められています。一般に、ゲージ率の不確かさは1%です。また、ゲージ率はゲージのパッケージに記載されています。この不確かさは、ひずみとひずみ計測の両方に対して同じ程度の不確かさとなります。

ゲージ率の温度係数(TC)

ゲージ率は温度に依存します。 依存の度合と方向は計測グリッドに使用される合金の種類によって決まります。応力解析のためには、ゲージ率のTCそれ自体が温度依存しているという事実を無視できます。コンスタンタン製の計測グリッドでは、TCは1ケルビンあたり約0.01%です。したがって、ゲージ率は温度が10K増加すると0.1%減少しますが、これは通常無視できる大きさです。 計測が33℃で行われる場合は、ひずみ値や負荷値がちょうど0.1%プラス側にずれます。

しかし、120℃では1%となり、考慮する必要があります。

計測グリッドの長さ

一般的に知られているように、ひずみゲージはゲージの下にある実際の表面のひずみを計測します。その活性面に覆われているエリアが均質でない場合は、抵抗値の相対的変動は最も大きい部分的なひずみに対応せずに、むしろ実際の計測グリッドの平均ひずみに対応します。確認したいのは最大負荷なので、これは致命的です。この場合、計測値は重要なひずみの最大値より小さい値となります。

この現象は良く知られており、実際のアプリケーションでは適切な対策(短い計測グリッド)が採用されるので、主要な誤差はめったに発生しません。参考のために、一例を挙げます: 計測はビーム先端に対する曲げ応力に適用されます。ひずみゲージは計測グリッドの下の平均ひずみ量を計測します(図8)。ひずみは負荷のように振る舞います:

実際に必要である最大応力値は、この単純なケースでは演算補正により容易に決定できました。これが行えない場合は、最大応力からの計測結果は実際の値より誤差が生じます。

相対誤差は以下の通りです:

l2(エル2:length2)の2%未満の有効長を持つ計測グリッドが上記の例で使用される場合は、誤差は計測値の1%未満まで下がります。


結局、ひずみの最大値とひずみ計測値の比率は計測グリッドの下のひずみの分布に常に依存します。これが有限要素法計算により、ストレスの算術平均から希望の最大値を計算できます。


もちろん、ひずみゲージが適切な場所に設置されていないと、誤差が生じます。しかし、これは通常、避けることができます。

図8: 曲げビーム上の最大負荷を計測するひずみゲージ

図9: 過酷な環境に設置されたひずみゲージ

非直線性

ひずみゲージの非直線性

適切な計測グリッドの材料(コンスタンタン、Karma、ニクロムV、プラチナ-タングステン)を使用したひずみゲージは直線性に優れています。ひずみ値が大きい場合は、コンスタンタン製の計測グリッドでは、かなりの誤差が起こります。実際の静的特性曲線は、以下に示す二次方程式(式12)で非常に適切に(経験則により)表現できます:

ひずみが以下の式で表せる場合は

非直線性は全くありません。
しかしながら、二次成分は実際のアプリケーションでは無視されますが、その結果として起こる誤差はここで示されています。真の値に対する決定されたひずみ値の相対誤差は、ひずみ自体と同じ大きさです:

最大1000 μm/m までのひずみに対しては、相対的なひずみの誤差は0.1%を超えていません。これは 1 μm/m となり、無視できる大きさです。

線形誤差は、大きいひずみ領域で意味ある大きさになります:

10,000 μm/m では1%、
100,000 μm/m では10%になります

大部分は、幸い1ゲージ式ブリッジ回路の非直線性によって補正されます。

単ゲージ式ブリッジ回路の非直線性

抵抗値の小さい相対的変動が、ホイストーンブリッジ回路で分析されます。通常、1計測点あたり1個のひずみゲージが応力解析で使用されます。したがって、他のブリッジ抵抗値はひずみから独立しています。この場合の負荷比の正しい関係は以下の通りです:

関係は非線形ですが、実用的な計測アプリケーション(既知か否かに関係なく)では線形の近似方程式

が適用されます。これにより相対的誤差は、以下の式(式17)で表せます。

1000 μm/m(k=2で) のひずみは相対抵抗値において、0.2%の変化をもたらします。

上記の式17で決定する相対計測誤差は。 -0.1%です。これは -1 μm/m の非直線性と同等です。この誤差は無視できます。

しかしながら、上に述べられるように、ひずみが大きい時には、かなりの線形誤差が生じます:

10,000 μm/m は-1%の誤差をもたらします。100,000 μm/m は-9.1%の誤差をもたらします。

コンスタンタン製ひずみゲージが使用される場合は(非線形性の程度は同等ですが、誤差の方向は正反対)、これらの2つの誤差は相互にほぼ相殺されるので、考慮する必要はありません。

(注意) しかしながら、どんな補正も完全ではありません。特にゲージ率が2から少し離れていて、実際の静的特性曲線が正確には実証的な式12に適合していない場合などがその例です。

個々の不確かさの総和

個々の原因から発生する不確かさを、互いに関連させるのは困難ですが、原因(材料による影響、ひずみゲージクリープ、ひずみゲージと単ゲージ式ブリッジ回路の非直線性)によっては、不確かさが相殺されます。したがって、個々の不確かさはピタゴラスの和として合計できます。例えば、上記の個々の不確かさは、不確かさの総和を得るのに使用できます。

ひずみ計測の不確かさはちょうど3%未満です。その負荷値は計測値のおよそ6%に達します。

このパーセンテージに計測値を乗算すると、誤差がμm/mまたはN/mm2で得られます。一般に、弾性係数の不確かさは、応力解析をゼロ点非固定で行う場合、最も大きな誤差要因となります。ゼロ点固定式での計測においては、追加の不確かさを考慮する必要があります。

続く ...

近々掲載の「高精度なひずみ応力解析」パート4で、続きをご覧ください。

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