技術解説レポート: ひずみ応力解析における計測の不確かさ - パート4

応力解析において、様々な手法で計測誤差を補正できるひずみゲージ式計測技術は、過去何十年もの間に改良が行われてきました。それでもなお、計測に悪影響を与える要因は残っています。本稿では、ひずみゲージを応力解析に使う際の誤差要因(通常、回避可能な場合が多い)をとりあげ、準備の初期段階で不確かさを推定する方法を紹介することです。

ゼロ点固定式の計測に対する計測不確かさの推定

このタイプの計測ではゼロ点の安定性が重要です。代表的なアプリケーション例は、建築物の長期計測やコンポーネントの疲労度試験です。ゼロ点が計測タスクの途中で変化する場合は、この部分が計測誤差に追加されます。本レポートは既刊のパート3で説明した計測の不確かさに関する情報とあわせてご利用いただくことで理解が深まります。

被計測体の熱膨張、ひずみゲージの温度応答、曲げ半径

以下は、厳しい計測環境下で追加補償用のひずみゲージがブリッジ回路の温度による影響を排除できない可能性があることを前提とした説明です。

材料は熱により膨張します。熱膨張は単に温度による影響量であるので、それ自体の計測は行いません。また、計測グリッドにも電気抵抗の温度係数と同様に熱膨張率があります。応力分析試験(ESA)においては、負荷によるひずみだけが計測対象なので、提供されるひずみゲージは、特定の材料の熱膨張に適合させています。しかしすべての温度係数自体が温度の関数であるので、この補償は完全には行えません。残偏差Δは多項式で計算できます。多項式の係数は、バッチ毎に明確に定義されており、ひずみゲージのパッケージ上に記載されています。

ひずみゲージ(HBMのタイプLY-6/120)の例は、ここ を参照してください。

現在の温度を、°Cに挿入してください(単位なしで数値だけ)。残る偏差(見かけのひずみ)はμm/mで示されます。温度が30 °Cの時は、結果として起こる見かけのひずみは -4.4 μm/m です。

周囲温度が基準温度(20 °C)からかなり大きく外れている場合や、ひずみゲージの調整が不正確な場合は、はるかに大きな偏差が生じます。これには一定の法則があり、計算で排除できます(オンラインも可能)。一方では、20 °Cからの温度差が起こす不確実さは、1Kあたり0.3 μm/m であることが方程式によってわかります。

補正計算のために必要な値は、周囲温度と材料の熱膨張係数だけです。

 

自己発熱

これはひずみゲージ自体が電力を消費することにより起こる温度上昇です。熱の発生量は以下の式で表せます:

ブリッジ印加電圧 5 V の2乗の平均値の平方根と 120 Ω のひずみゲージの場合は、結果として起こる発熱量は 52 mW です。長さ6 mm の計測グリッドを持つひずみゲージを、鉄またはアルミニウムの上に薄い接着剤で貼り付けた場合は、熱は計測対象を通して十分に発散されます。それにもかかわらず、ひずみゲージと計測対象の間にわずかな温度差が起こります、これは真のひずみとは異なる見かけのひずみになります:

ひずみゲージの温度が計測対象の温度よりちょうど1K高い場合は、これだけで見かけのひずみは、-11 μm/m (フェライト鋼)、あるいは -23 μm/m (アルミニウム)となります。計測の不確かさのおよその大きさは、簡単な実験で決定できます。それは計測対象に荷重をかけない状態で、印加電圧をかける方法です。温度上昇の過程で、計測値がわずかに変動します(ゼロ点ドリフト)。この発熱・放熱の過程で見られる計測値の最大変動幅が、予測される偏差の最大値に対応しています。

印加電圧が低いと改善します(1 V だと2 mW 消費)。また、高い抵抗値のひずみゲージも有効です。

しかし、熱伝導率が低い材料(プラスチックなど)に対して、非常に小さいひずみゲージを使用するときは、印加電圧を下げることが不可欠になります。急速に温度が変動しているときも注意が必要です。熱伝導などにより計測対象の材料に対してひずみゲージの金属箔が調整される補正効果は、瞬間的に終了するのではなく時定数を持っています。

接着剤と計測グリッドキャリアの膨張

この主因は、水分子は高い移動性を持つことと、接着剤やキャリアに使用されている材料の吸湿性です。その影響は明確に認識できない(材料のひずみと区別できない)ゼロ点シフトで、かなりの値になる可能性があります。計測対象には存在しないひずみを計測値として表示してしまいます。この寄生応力は部分的に方向が反転します(おそらく収着ヒステリシスのためです)。残念ながら、「ヘアドライヤを取り出して」水の分子を追い出すというようなことはできません。計測値がドリフトする速度は、計測ポイントに対する保護の程度と周囲条件に依存します。その時定数は数時間におよぶ可能性があります。高温や高い相対湿度は特に危険な環境要因です。残念ながら、これらに関しては具体的な演算や数値は確立していません。

絶縁抵抗

また、フラックスなどの残留物は水分を吸収します。これは実際のアプリケーションでは「ひずみ表示のちらつき」として見える現象で、風通しなどの影響による計測値の変動とはだいたい区別できます。この様な場合は、すべての接点を完全に清掃すると効果が出ます。また、残留物などを外から加熱して強制的に乾燥させることが可能なケースもあります。しかしながら、この対策は湿気が計測ポイントの保護カバーの内側に密封されていないことが条件です。実務的には、計測ポイントをカバーする前に、周囲温度と比較して数Kほど高い温度で加熱後、ただちに封入します。これにより、カバーの内側で結露が起こる可能性を排除できます。絶縁抵抗値が低過ぎる場合は、計測値のゼロ点ドリフトが起きます。ブリッジ回路の絶縁抵抗値は極めて重要です。ひずみゲージ回路上の接点における絶縁不良は抵抗値を大きく変動させる可能性があります。直接計測できませんが、絶縁抵抗と同じレベルの影響が出る可能性があります。見かけのひずみとシャントとの相関関係は以下の通りです:

この公式が示すように、高抵抗のひずみゲージでは影響が低くなります。以下の測定誤差は120 Ω のひずみゲージ(ゲージ率=2)の場合です:

「正常な」状況では、50 MΩ 以上の絶縁抵抗値がある場合は、1.2 μm/m 未満の偏差となり、これは無視できるレベルです。

絶縁抵抗値500 kΩ では、1000 μm/m の計測値に対して-12%のゼロ点誤差が生じます。これは、絶縁抵抗値の大幅な劣化は計測ポイントの破壊につながることを明確に示しています。ひずみゲージセンサには、数GΩの絶縁抵抗値があります。

高温と高い相対湿度が同時に存在する場合(飽和蒸気など)は、水分の蒸気圧が高くなるので危険な状態です。高温高圧の小さい水分子が押し寄せて、徐々に計測ポイントの保護壁を破壊します。計測ポイントが数日後か数年後に崩壊するかどうかの予測は、テストなしでは不可能です。

疲労

ひずみゲージの計測グリッドの疲労による影響はゼロ点のシフト(材料における見かけのひずみ)として表れます。負荷方向が変化するひずみの振幅や負荷サイクル数が大きければ大きいほど、影響はより大きくなります(図10参照)。

また、ひずみの設置状況やひずみ値の算術平均もゼロ点シフトに影響します。平均値が負なら、疲労寿命は長くなり、値が正なら短くなります。実際には、最大振幅が1000 μm/mまでの負荷方向が交互に代わるひずみの場合、ゼロ点シフトはゼロの可能性があります。振幅がこれより大きい場合は、ドリフトが大きく出る可能性があります。10 μm/mレベルのゼロ点誤差は以下の条件のときです:

振幅1500 μm/m で負荷サイクル約2,000,000回
振幅2000 μm/m で負荷サイクル約100,000回
振幅2500 μm/m で負荷サイクル約4,000回
振幅3000 μm/m で負荷サイクル約100回

ここで、計測対象の材料もひずみゲージと同様に疲労することにご注意ください。計測対象の耐久性が箔タイプのひずみゲージより大きい場合は、長寿命の光学式ひずみゲージの使用をご検討ください(ファイバブラッググリッド)。

図10: ゼロ点はひずみの振幅とサイクル数に依存

ひずみゲージをコンクリート(頑健な構造支持体)に設置

部分的な不確かさのまとめ

セクション3.3の偏差は、事実上、乗法的であり、計測値の割合として示されます。しかし、このセクションの誤差要因は、加法的な効果があります。誤差要因のユニットはμm/mで、計測値から独立した数値です。相対偏差が以下の式で計算できる場合:

その値はセクション3.3の偏差に匹敵しています。

上記の太文字の値をピタゴラスの和で結合すると、結果は16.01 μm/mです。計測の不確かさは略数なので、このゼロ点の不確かさは17 μm/mです。1000 μm/mのひずみに対しての割合は、1.7%となり妥当な範囲です。しかし小さいひずみでは: 100 μm/mの17 μm/mは17%にもなり使用できません。

ここで、セクション3.3(ひずみ計測では3%)からの不確かさに対してゼロ点の不確かさ(1.7%か17%)をさらに加えなければなりません。

ピタゴラスの和によると:

1000 μm/m のひずみ計測値に対しては4%
100 μm/m では18%

通常、機械的負荷が実際の計測量であるので、その不確かさを推定できます。セクション3.3で計算された応力測定の不確かさは6%です。ゼロ点の不確かさ(1.7%か17%)をピタゴラスの和で合計する:

1000 μm/m では7%
100 μm/m では19%

ゼロ点固定の計測方式では、大きい相対計測誤差が生じ、特に小さいひずみ計測量では悪化します。


ひずみゲージの設置例

レール上に設置されたひずみゲージ
FINO1研究プラットホームのひずみゲージの計測点は北海の水面下にあります。
複合材料(回路基板)に設置されたひずみゲージ
鉄骨構造体に設置されたひずみゲージ
ヘリコプターのローターヘッドに設置されたひずみゲージ

設置時のエラー(人為的要因)

ここまでの説明では、ひずみゲージの計測ポイントへの設置は事前に正しく準備された計画に沿って確実に実行されていることを想定しています。上記の例では不確かさ要因の数個しかセット範囲を超えていません。設置が正しく行われない場合は、残念ながら、計測の不確かさはそれに応じて大きくなります。非常に長いひずみゲージで、V溝上の負荷を計測する場合、または、ひずみゲージへの接触抵抗値が0.24 Ω変動(120 Ωひずみゲージで1000 μm/mのひずみ不確かさに匹敵)する場合を想像してみてください。

長い期間にわたり実施されるゼロ点固定式の計測では、計測点の保護が非常に重要になります。好例は北海(ボルクム島から北45 km)のFINO1研究プラットホーム(全高129 m)の44箇所に設置されたひずみゲージです。ひずみゲージは海面下5~25 mに位置しています。その目的は、くい打ち機、波、風によって引き起こされるプラットホームの支持フレームのひずみを計測することです。北海の水に接してから2年の後でも、42箇所の計測ポイントは完全に機能していました。

別の大きな不確かさ要因は、ひずみゲージが計測面に対して部分的にしかな接触していない場合です。原因は接着面の加工やクリーニングが不十分で、接着剤が正しく機能していないことです。これは絶対避けてください。一般に、消しゴムテストが有効です。短期的な計測(引張試験)では計測ポイントの保護を省ける場合もありますが、ひずみゲージの設置は経験者が最新の注意を払って行うべきです。おそらく、計測ポイントの設置において知識と経験が、これほど重要な役割を果たすのは、ひずみ計測以外にはないのかもしれません。このため、企業や研究所では近年、VDI/VDE/GESA2636に従って様々な資格レベルで担当者を認証する傾向が高まっています。

FINO1研究プラットホームの絵と画像(GL Garrad Hassan 提供)

関連技術レポートもあわせてご覧ください。

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