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日時:2016年12月16日(金) ~ 12月17日(土)
場所:長岡技大または長岡駅前ホテル(後日決定)

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三相AC モータの効率/損失特性図の作成

読者の皆様へ:当技術レポートはHBMならびに Politecnico di Torinoの共同研究の一部に関するものであり、双方の著者によるいかなるIEEE関連論文とも矛盾しません。

電気自動車やハイブリッド車の走行距離を伸ばそうという取り組みが続く中、動作部の要である電動モータの効率/損失の評価手法は極めて重要度を増しています。産業アプリケーションや、鉄道輸送、発電、家庭用電化製品分野の可変速駆動システム市場では、トルク密度や効率の面からPMモータが広く使われています。なおこの技術レポートでは、SMモータ、インセット型PMモータ、IPMモータ、PM同期リラクタンスモータ(SynchRel)など多様な種類に言及しています: 

磁石を使わないACモータは永久磁石を使うPMモータに比べ効率は落ちますが、高温環境や高信頼性を確保したい場合にはより好まれます。例えば、航空機の発電機に使われているのは3相ブラシレス電磁石界磁型モータです。同期リラクタンスモータはすでに市販され、可変速ヒートポンプ式インダクションモータに代わる可能性をもちます。

どのような装置を使う場合でも、用途に最適な制御を行う必要があるため、装置がその用途の要件を満たす特性を備えているかどうかを正しく把握できるだけの十分なテストが必要です。

そのためにはモータのすべての駆動ポイントにおいて計測プロセスを自動化する方法が必要となります。この技術レポートでは、三相IPM 電動機にトラクションをかけた試験を例に、エネルギー効率/損失特性図の作成方法を紹介します。なおこの方法はどのAC 電動機の評価にも使用できます。評価システムは、HBM のデータレコーダであるGenesisHigh Speed シリーズ Gen3i(以降GEN DAQ)を使用しています。

 

 


テスト装置の説明

最初に、効率/損失特性図作成で使用するテスト装置(図1)について説明します

  • MUT:試験用モータ、IPM モータ
  • モータコントローラ:dSpace 製、専用のアナログ/デジタル入出力
  • DM:駆動用モータ、AC/AC 双方向コンバータで電力供給されるPM モータ、速度制御はdSpace DAC からのアナログ出力。CAN/RS422により代用可(ただしDM供給用コンバータの通信スピードによる)
  • トルク計測:HBM 高精度トルクセンサT40Bで軸トルクと位置(1024 パルス/回転) を計測(図2)。MUTとDMシャフト間にカップラとして設置し、回転座標変換を介して計測システムにデータ伝送
  • 相電流計測:高精度LEM センサ、2MS/s でGEN DAQ に連続データ保存(図3)
  • MUT 線間電圧計測:高電圧を直接GEN DAQ で計測、2MS/s の高速連続保存、計測された電圧は電動機に印加される実際のPWMパルスとして観察可能
  • 位置測定:トルクセンサT40B からのロータの位置に加え、GEN DAQ はインクリメンタルエンコーダからのロータの位置も測定(図1)。外部スプリッタがエンコーダのパルスを受信しモータコントローラに、さらにGEN DAQの絶縁入力に伝送
  • 3台の熱電対で温度を計測。プログラマブルアンプで読み取りGEN DAQで収集

MUTならびにDMは図5に示す通りです。図6にはGEN DAQを含むテスト装置全体の概略図を示しています。

図1:効率/損失特性図作成用テスト装置
図2:トルク計測(トルクセンサ T40B)
図3.a:MUTの電流を計測する電流センサ
図3.b:電流パネルのリア部
図4.a:プログラマブル絶縁アンプで温度計測
図4.b:同じくプログラマブル絶縁アンプで温度計測
 
図5:MUT(右)とDM(左)
図6:テスト装置全体(GEN DAQ含む)

モータ効率/損失特性図の作成

図7:T-N 平面上にマッピングされた計測ポイント
図8:DMの参照スピードとMUTの参照トルクのトリガポイントにおける変化

図7のようなモータ効率/損失特性図を作成するには、モータの様々な設定値のデータを総合的に収集する必要があります。

これにはモータ速度を最小値(ωmin) から最大値 (ωmax)まで変化させます。変化させる速度の範囲(ωmax-ωmin)を20 程度に分けて設定速度としてそれをΔωとします。各設定速度で印加トルクを最小値 (Tmin) から最大値 (Tmax)まで変化させます。トルクの変化の範囲(Tmax -Tmin)を20 程度に分けて設定トルクとし、それをΔT とします。その結果T-N 平面にN = n x m 点の計測ポイントができます(図7)。

速度制御されたDM とトルク制御されたMUT を使用し、先に決めた計測ポイントにおいて速度を一定に保ちながらトルクをΔ T毎に変化させデータ計測を行います(図8)。

図8にあるように、1つの操作ポイントの保持時間は3秒です。すべての計測点でMUT とDM が設定されたトルク値と回転数に達するとGEN DAQ のトリガが発動し単一スイープモードでデータが取り込まれます。GEN DAQ システムではデータ収集と分析はリアルタイムで実行されるため、1 つの計測点あたりにかかる計測とその処理時間は1 秒程度であり、計測ポイント間の待機時間はわずか100ms となります。結果としてデータ収集に必要な時間は、操作ポイントの数にもよりますが、だいたい10~20分程度です。


収集データの分析

試験が終了した時点でT-N 平面上にマッピングされた大容量のデータがGEN DAQ の記録ディスクにN個のファイルとして保存されています。1ファイルが1トリガ分のデータで、マップ上の1計測点を示します。GEN DAQ はそれぞれの計測点においてデータ記録と同時に以下の演算を実施しています。

  • 入力電力

(1)      

 

vαβ と iαβ はそれぞれスタティックな参照フレーム内の電圧と電流のベクトル (α,β)を示します。電気的サイクル時間Tは電気角から取得します。なお収集された電圧と電流にはフィルタは一切適用されていません。

  • 銅損(ジュール損)

(2)      

ステータ抵抗の平均値  Rs,avg の計算は次の通りです:

(3)      

Rs,base (Ω)は ベース温度でのステータ抵抗値 (例:θbase=20 °C) で、 はステータ温度kの平均値として計算されるステータ平均温度です。

平均抵抗値は表皮効果を考慮して補正します。

  • モータの機械的な仕事量

(4)      

 Tm は計測トルク、 ωm 計測スピードを意味します。

  • 鉄損と機械損

(5)      

  • 鉄損

(6)      

PMec は速度に依存した機械損であり、事前に知っておく必要があります。

DMとMUT(結果としてスピードに影響)によるトルクのリップルの影響を回避するため、電力値は複数の機械的回転を含むインターバルでの平均値が保存されます。

  • 鉄損と全体損失に伴うトルク (鉄損 + 機械損)

(7)       

         

 (7)で計算されたトルクは推定トルク(モータコントローラによる)および実際の軸トルクとの差になります。この値は、GEN DAQにより回転数の平均(整数)として提供されます。

  • モータ効率とインバータ効率

(8)      

インバータ効率が得られるのは、DC電圧とDC電流が計測される場合です。この時のインバータ効率は次式で表せます。

(9)      

がインバータ入力である時、平均化することによってDC電圧と電流のリップルを排除する必要があります。

効率/損失特性図に加え、GEN DAQは次のような計算結果も保存できます。これらはMUTの動作解析において非常に便利です:

 

(A) (d,q) ロータの鎖交磁束

鎖交磁束はまずベクトル(α,β) で逆起電力の時間積分として計算されます。

(10)      

サイクルごとのオフセット補正により、鎖交磁束の計算値のドリフトを回避します。(a,b)が計算されると、回転座標変換により (d,q)は容易に得られます。 磁束の大きさも同時に計算されます。

(11)      

  が位置情報、ポールペア数、および既知のオフセットから計算された電気的位置を示します。

ステータの磁束ベクトルは実際のモータ電圧と良好なステータ抵抗をもとに計算されるため、この演算精度は非常に高いと考えられます。(d,q) におけるステータの磁束ベクトルは非常に精度が高く、磁場モデルによる結果との比較が行えます。

(B) (d,q) ステータ電流と電圧

(d,q) ロータ電流と電圧は、磁束にも使われている直流回転座標変換(8)を使い(α,β)ベクトルから計算されます。PWMリップルにより (d,q) 電圧は影響を受けるので、サイクルごと、および機械的回転数ごとに平均値が抽出されます。

ステータ電流のベクトル(d,q)は、ベース速度のMTPA曲線を確認する際に有効です。

(C) 電磁(力)トルクの概算値

電磁(力)トルクはGEN DAQでは次式で計算されます。

(12)      

この電磁(力)トルクは実際のモータのPWM制御電圧をサンプルすることで評価される磁束ベクトルと、ステータの平均温度を考慮したステータ抵抗により算出されます。よってこのトルクが最も適切なトルクの推定値と考えられます。

GEN DAQは電磁(力)トルクを機械的回転数の平均値として保存します。


計測データを使った分析

ここで紹介した方法は次のような定格パラメータをもつ三相IPMモータを使って実行されました:定格電圧(線間)310Vrms, 定格電流17Arms、定格トルク22N・m、定格速度3250rpm、4極。回転(d,q)フレームの定義は図9に示す電動機に対するアプローチと同じです。d軸は最小リラクタンス、q軸は最大リラクタンスを示し、磁束鎖交はマイナスのq軸にアラインします。

図9:テストで使用した電動機の(d,q)フレームの定義:
左:理想的な2極電動機、右:実際の4極電動機

テスト中、速度を500 rpmから7500 rpmまで500 rpmステップで変化させ(15計測ポイント)、この間のトルクを0から38N・mまで2 Nmステップで制御します。これによりMUTのトルク-速度の動作座標に300個の計測ポイントが生成されます(図7)。MUTを供給するインバータは標準的なIGTBインバータで、スイッチング周波数は10kHzです。このインバータには340Vdcが連続供給され、この電圧は350VdcのDC電源から連続供給されています。このテスト結果については次のセクションで述べます。

(A) トルク-速度および電力-速度マップ

計測されたトルク-速度の特性図を図10に示します。MUTのトルク特性がわかります。入力電力と出力及び速度を図11に示します。高速度領域において入力電力はほぼ一定ですが、出力(電力)はやや減衰しています。この図より目標出力により定電力速度領域が定義できます。図11より定電力速度領域は全領域のおよそ3/4であることが分かります。相電流rms、トルク計測値、全磁束鎖交、ピーク相電圧が図12に示されています。テスト中ずっと、すべての相電流が制限されていることが簡単にわかります。さらに相電圧が磁束が弱まるとどのように制限されるのか、また速度が上がるにつれてどのように磁束が次第に減衰していくのかがはっきりとわかります。

 

 

図10:試験機により計測されたトルク速度マップ
図11:計測により得られた試験機の電力-速度の出力ならびに電力-速度の入力
図12:MUT相電流rms(A)、計測トルク(N・m)、全磁束鎖交(Vs)、ピーク相電圧(V)

最初の20ポイントは500rms、次の20ポイントは1000rms、最後の20ポイントは7500rpmに対応

(B) 効率/損失特性図の作成

MUTのモータ効率マップを図13に、損失マップを図14に示します。この効率マップはMUTの各トルクと角速度においての効率変化が一目でわかりモータ効率を評価する上で極めて重要です。また必要な場合GEN DAQはインバータのDC入力も計測できます。計測結果からインバータの効率マップがさらに、ドライブ効率マップが作成できます。

図13:MUT効率マップ
図14:MUT損失マップ

銅損の特性を図15に、鉄損、機械損の特性を図16に示します。さらに異なるMUTでの損失(銅損/鉄損/機械損)の時間的変化と、その総和(全体損失を意味する)を図17に示します。非常に興味深いのは、3500rpm(テストポイント140)までは銅損が優位であり、それ以上の回転数では鉄損や機械損が優位になり、さらに7000rpmでは銅損は鉄損・機械損に等しくなるということです。この結果は、図15および図16に示したそれぞれの損失特性と完全に一致します。

図15:銅損の特性図
図16:鉄損および機械損マップ
図17:テスト時のMUTの損失(W)変動 (黒:全体損失、赤:銅損、青:鉄損および機械損)

(C) (d,q) フレームの軌跡

さらに(d,q)変動を分析することにより、適切な電動機の制御が行えているかの検証が可能です。GEN DAQは計測されたロータ位置を使うことにより、テスト中でも容易にdq量(電流、電圧、磁束鎖交)を取得し、(d,q)座標に対応したベクトルの軌跡をプロットできます。例として図18に電流ベクトルの軌跡を示します。図19には磁束鎖交の軌跡を示します。低速では、電流ベクトルも磁束ベクトルの両方がアンペアあたりの最大トルク(MTPA)を示す黒の実線に呼応します。磁束が減少すると、電流ベクトルと磁束ベクトルは最適なMTPA軌跡から離れ、q軸に近づきます。図18の結果を利用し、ベース速度より下の領域で計測された電流ベクトルが真にMTPA軌跡に従うかを確認でき、MUTのトルクを高く保つ最適な方法を検証できます。

18図:(d,q)フレームのb電流ベクトルの軌跡

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