高精度なダイナミックパワー計測

産業用途や電動モビリティ用に使われる電気駆動システムの効率評価には、高精度かつダイナミックな電力計測が必要になります。本稿では、こうした用途での一例として、2 レベルインバータ、三相電動モータ、ならびに電源で構成される電気駆動システムを計測対象としたパワー解析手法について述べます。

最初にデュアル2 レベルインバータ(dual two-levelinverter: DTLI)回路について解説し、次にHBM のモバイルデータ収集システム Genesis High Speed シリーズ(以後GEN3i)を用いた電気/機械パラメータの収集、およびリアルタイムでの電力演算方法について紹介します。

The authors

Simon Wolfstädter, M.Eng., Thomas Kowalski, M.Eng., Prof. Dr.-Ing. Johannes Teigelkötter, University of Applied Science Aschaffenburg, Dipl.Ing. Klaus Lang, HBM

デュアル2 レベルインバータ

図1:独立したDC 電源を備えたDTLI回路

デュアル2 レベルインバータの回路は、2 つの独立したインバータから構成され、2 つのインバータの間に電動モータが位置し、インバータ出力と巻線端が接続されます。これにより電動モータには、6 相の電圧が供給される。図1 は、独立したDC リンクを備えたDTLI の回路を示す。2 つのインバータには、それぞれ異なった2 つのDC リンク電圧が供給されます。

このDTLI 回路の特長として代表的なものは、フェイルセーフ性能の向上、DC リンク電圧の低減(電動モータに対する電力要件が同じ場合)、および単体の2 レベルインバータよりも多くの電圧レベルで駆動できる点です(図1)。

同時にこの回路では、電動モータから入出力される電力を、2つのインバータ、またはそれらに接続されたDC リンクに分配できます。図2は、想定されるシステム内のエネルギー環流を示します。エネルギー環流はインバータと電動モータ間だけでなく、2 つのインバータ内にも存在します。これは2 つのDC リンク間でも電動モータを介してエネルギー交換が可能であることを意味しています。

図2:システム内のエネルギー環流

テスト装置とデータ収集プロセス

システム内の電気および機械パラメータの計測と収集、分析を行うには、多数の計測ポイントが必要になります

動的・静的な駆動特性を評価するには、回転速度、トルク及び回転角などの機械パラメータに加え、相電圧/電流の変動とDC リンク電圧、および電流の電気パラメータが必要になります。

図3はGEN3i に収集されるシステムの特性データの流れを概略図で示しています。

図3:システムの特性データの流れ

テスト装置の説明:

  • 試験用モータは、DTLI から電力供給される永久磁石同期電動モータ(permanent magnet synchronous machine: PSM)。各インバータは、数台のリチウムバッテリから電力供給。ロータの回転角度は、レゾルバを使って計算
  • 各運転パラメータは、CAN バスによって設定
  • ダイナモメータは、別のインバータから電力供給され、速度制御されているPM モータ。このインバータは、電源供給ネットワーク上の電源装置により駆動。インクリメンタルエンコーダによって、回転速度は計測される
  • 相電流は、高精度CTLEM センサIT400S で変換されたmA 電流をシャント抵抗HBR2,5 でmV に変換し、GEN3i に直接入力
  • 2 つのインバータの相電圧は、GEN3i に接続された仮想中性点アダプタを利用して計測
  • バッテリ電圧は、GEN3i の高電圧入力チャンネルに直接入力。
  • トルクと回転速度と回転角度は、HBM T12 トルクセンサにより取得。これらの値はT12 からイベントI/O への変換アダプタを介してGEN3i に入力

写真1 は、巻線の両端が接続された試験対象の電動モータとトルクセンサ、CT、及び相電圧用計測タップ。写真2 は、インバータに電力を供給する2 つのリチウムバッテリのうちの1 つ。 写真4 は、電流計測用のシャント抵抗器及び仮想中性点アダプタを接続したGEN3i の入力チャンネル。

写真1:トルクセンサ T12、CT 及び電圧計測用のタップが装着されたモータテストベンチ
写真2:インバータに電力供給するリチウムバッテリ
写真3:GEN3i、およびパラメータ設定用PC、CT用電源、T12からイベントIOへの変換アダプタ
写真4:シャント抵抗器及び仮想中性点アダプタを接続したGEN3iの入力チャンネル部

リアルタイム電力演算

取得したデータからシステム電力が得られる(後述:参考文献[2]および[3] 参照)。この位相情報をもとにインバータ出力側の瞬時電力を計算します。

2 つ目のインバータへの向かう電力の方向から、負の相電圧が正の電力出力に影響。

有効電力は、相電流の基本周期T で積分、平均化して算出。

2つのインバータの入力側における有効電力も、同じ方法で算出。

電動モータの瞬時電力は、各々の相電圧間の電圧差に相電流を乗じて算出。

もしくは、2 つのインバータの電力の合計として表せる。

電動モータ軸の機械出力は、トルクMと回転速度nにより計算。

インバータのエネルギー効率を使用して、出力側の電力を、DC 電圧側の電力に変換。

エネルギー効率が既知でバッテリ電圧が一定の場合、当該のバッテリ電流は次式で計算。

計測結果

前項に示した計測値と演算方法を利用して、電動モータ(仕様:公称(定格)相電圧270 V、公称(定格)電流: 150 A、公称(定格)トルク: 190 Nm、公称(定格)回転速度: 1500 rpm、極対の数: 2)の評価を行います。


DTLI の2 つのIGBT インバータは、それぞれ8 kHz のスイッチング周波数で、同期して動作している。2 つのインバータにはそれぞれ、210 V の公称(定格)電圧を持つリチウムバッテリから電力が供給されます。一例として、DTLI と電動モータの駆動特性を知るための2 つの試験方法を以下に示します。

(A)2 つの2 レベルインバータへのエネルギー分配

計測時、ダイナモメータは一定の制御速度(750 rpm)で稼働します。試験対象の電動モータには、デュアル2 レベルインバータによって最初に対称的に(PAC,1= PAC,2)、次に非対称的に(PAC,1 ≠PAC,2)電力が供給されます。モータのトルクは120 Nm である。図4 は、GEN3i によって計算されたシステム電力P を示します。インバータの入力側の電力と出力側の電力と共に、電気出力と機械出力が合計出力として示されています。この図から、例えばエネルギー分配の変動は、最初の2 つのインバータの電力にのみ影響し、最終的なモータ出力には影響しないことがわかります。

(B)2 レベルインバータ間のエネルギー交換

(A) と同じ電動モータ設定点を用いた対称的な電力供給に続き、2 台のインバータとリチウムバッテリ間でエネルギー交換が開始されます。バッテリ2 に対して、必要な負荷電流として最初に20 A、次に30 A 及び15 A が割り当てられています(図6)。図5 は、GEN3iによって演算されたシステム電力P を示します。開始点での2 台のインバータに対する対称的な電力供給が時刻 t = 約 4.3 秒においてエネルギー交換に切り替わっています。その後インバータ1 は、電動モータが必要とするエネルギー及びバッテリ2 の充電に必要なエネルギーを返します。

図4:(A) のシステム電力演算結果
図5: (B) のシステム電力演算結果
図6: (B) のバッテリ電流計測結果

リアルタイム演算とポストプロセス演算

図9 の有効電力曲線は、インバータ1 の入出力電力と共に機械出力及び4 項 (A) で説明した計測に対する2 つの計算方法(リアルタイム及びポストプロセス)の比較です。両手法とも同じ結果を示しています。

図7:リアルタイムおよびポストプロセス演算で得られた有効電力曲線

ポストプロセス演算式

図7 は、Perception ソフトウェアが提供する演算シートの一部です。ここには代表値として、2 つのDC リンクとインバータ1
の出力の電力演算式が示されています。

図8:ポストプロセス演算式の一例

リアルタイム演算式

リアルタイムでの電力演算式を図8 に示します。ここでも代表値として、インバータ1 の入出力有効電力を示します。なお、ポストプロセス演算とリアルタイム演算の間には構文上の差異があることに注意してください。

図9:リアルタイム演算式の一例

References

[1] Grandi, Gabriele; Rossi, Claudio; Lega, Alberto; Casadei, Domenico: Multilevel

Operation of a Dual Two-Level Inverter with Power Balancing Capability. In: Conference Record of the 2006 IEEE Industry Applications Conference Forty-First IAS Annual Meeting, 2006, 603–610

[2] Teigelkötter J.: Energieeffiziente elektrische Antriebe [Energy-Efficient Electrical Drives], 1st edition, Springer Vieweg Verlag, 2013

[3] Berechnung von Leistungsgrößen mit Perception-Software [Calculating Power Values with Perception Software]: www.hbm.com/en/3783/calculating-power-quantities-with-perception-software/

関連情報