1. 影響量
2. 補償の手段
ひずみゲージ、温度補償
ひずみゲージの計測中に温度変動が起きると、通常は計測結果に望ましくない影響を与えます。しかし対策は様々あり、アプリケーションに最適なひずみゲージを選択する、ハーフまたはフルブリッジのホイートストンブリッジ回路を利用する、演算により補償するなどによりほとんど場合、温度の影響は補償できます。
フォイルタイプのひずみゲージの許容温度範囲は、使用されている材料によって制限されます。最大温度は約300~400 ℃です。計測がこれより高い温度で行われる場合は、異なる原理のひずみゲージを使用する必要があります。HBMひずみゲージの制限温度:
もちろん、使用している接着剤の温度制限を守る必要があります。温度上昇で接着剤が軟化した場合、ひずみが正確に伝わらなくなります。そのため、接着剤の温度制限を守る必要があります。接着剤は常温硬化型と加熱硬化型に分かれています。これは室温で硬化させるのが適切か、または、オーブンが必要かによって異なります。HBM提供の接着剤の制限温度:
影響量 | 補償手段 |
材料の膨張 | 自己補償をするひずみゲージを使用 |
配線抵抗 | マルチワイヤ技術を使用 |
ゲージ率の温度係数 | 非常に低いので通常は無視 温度を同時に測定して計算で補償 |
弾性係数に対する温度の影響 | 通常は無視 |
温度に関係している可能性がある以下のポイントも要注意: | |
ひずみゲージの自己発熱 | 最大励起電圧を守る |
気候/相対湿度 | 計測点を保護する |
接着剤のクリープ | 使用する接着剤の温度制限を守る |
これらの 2つの影響要因に特に注目する必要があります:
これらの2つのおもな要因に加えて、温度の影響が大きい影響量がほかにもあります。これらの効果の合計は無視できますが、通常は計算による補償で解決できます(以下の計算による補償の説明をご参照ください)。
温度が上昇すると、計測中の材料は膨張します。その程度は材料の膨張係数に依存します。この係数は材料によって異なります。たとえば、鉄鋼の場合は約11 ppm/Kなので 、± 1℃の温度差は 11 μm/m の膨張を意味します。温度変化の影響による材料の膨張は、最終的には「見かけ」ひずみ(負荷のないひずみ)の計測になります。
体積の変化
このケースに対する最善策は、自己温度補償型ひずみゲージを使用することです。この補償型ひずみゲージにおける温度の影響は、使用されている特定の素材により見かけのひずみ(つまり温度に起因するセンサ本体の膨張)は補償されます。
2線式回路が使用されている場合(図参照)は、計測ケーブルの抵抗値が、ひずみゲージの抵抗に追加されるので、計測結果に影響します。ゼロドリフトと実効ゲージ率の低下に加えて、計測ケーブルの抵抗値も温度に依存します。
この場合の適切な対策は、以下で説明するマルチワイヤ技術の利用です
ゲージ率は、ひずみゲージの最も重要な特性です。ひずみと抵抗値の変化の間の相関関係をあらわします。ゲージ率は温度に依存しています。一般的なゲージ率の温度係数は0.01 %/Kなので、計測結果に対する影響は比較的小さく、ほとんどが無視されます。しかし、計算により補償(温度計測値による)することも可能です。
弾性係数はゲージ本体の材料特性で、ひずみの計測値と機械的ひずみ間の相関関係を表します。この弾性係数は温度に依存しています。標準的な鋼鉄の弾性係数の温度依存の値は約-0,02 %/Kです。実験応力解析では、弾性係数の温度効果は、通常は無視されます。校正可能な高精度トランスデューサを使用すると、ブリッジ内の温度依存性のニッケル要素によって補償が行われます。
励起電圧により、ひずみゲージの温度はセンサ本体に比べ高くなります。センサ本体の熱伝導率に応じて、熱は本体に吸収されます。センサ本体の熱伝導が悪い場合は、センサ本体とひずみゲージ間に温度差が生じます。これは自己補償型ひずみゲージの機能を阻害する可能性があります。しかしながら、最大励起電圧が守られていれば、この発熱の影響は非常に小さいので無視できます。
測定ポイントが適切に保護されていない場合は、相対湿度に応じてゼロ点のドリフトが発生する可能性があります。これは、接着剤とゲージキャリア材料(吸湿性)に吸収されている水分子によるものです。適切な対策は、測定ポイントを十分に保護することです。
温度が上昇すると接着剤は軟化し、ひずみを100 %伝えることができなくなります。これは、ゲージ率の劣化に似た現象になります。このため、接着剤の温度制限を常に守ること、また、各アプリケーションのフィールド環境に適した接着剤を選択することが重要です。
自己補償型のひずみゲージは、独自の特性を持つ材料の温度挙動を補うために開発されました。これは見かけのひずみ(温度の変化によるセンサ本体の熱膨張 )を補償することを意味します 。そのため、センサ本体の材料に適した温度応答を持つひずみゲージが選択されています。
自己補償型のひずみゲージに一般的に使用されている材料に対する温度調整:
コード | 材料(例) | α (·10-6 / °K) |
1 | フェライト鋼 | 10.8 |
3 | アルミ | 23 |
5 | オーステナイト鋼 | 16 |
6 | シリカ / 複合材 | 0.5 |
7 | チタン / グレー鋳鉄 | 9.0 |
8 | プラスチック | 65 |
9 | モリブデン | 5.4 |
センサ素材に適したひずみゲージの選択により、 大半の見かけのひずみが補償されます。しかし誤差が残る場合があります(非線形成分)。この誤差は製造の段階で決定されデータシートに記載されます(図解参照)。より厳密に補償を行うには(例えば大きな温度変動に対して)、演算による補償 ( 以下を参照 ) を行えます。
Learn how the coefficient of thermal coefficient of expansion of aluminium can be determined using "mismatched" foil strain gauges.
Understand the ¼-bridge compensation calculation step by step based on a practical example.
自己補償型ひずみゲージに加え、ハーフまたはフルブリッジ回路、および、 3線式 または 4 線式の回路を使用することにより、ケーブル抵抗値の影響を最小限に抑えたり、完全に除去したりできます。
ホイートストンブリッジ回路は、抵抗の非常に小さな変化を計測可能な電圧に変換します。ブリッジの4つの抵抗器のうち、1つをひずみゲージ(1/4ブリッジ回路)で置き換えることができます。 または 2つの抵抗器を2つのひずみゲージ(1/2ブリッジ回路)、あるいは、4つ全てをひずみゲージ( フルブリッジ回路)で置き換えできます。
ホイートストンブリッジ回路では、それぞれの抵抗器に異なる信号が流れるので、これを補償のために使用できます。温度補償の原理を、曲げビームの例で説明します。
正の負荷のもとでは、ビームの上側は正のひずみ(+)を受け、下側は圧縮(-)されます。このビームの上下にそれぞれひずみゲージを設置してホイートストンブリッジ回路に接続した場合、結果は信号が2倍になります。しかし温度依存のひずみが発生した場合には、両方のひずみゲージが同じひずみ信号を示します。したがって、温度効果は、ホイートストンブリッジ回路で相互に相殺されます。
配線抵抗の影響は、3線式回路でほとんど補償することができます。これを行うために、電源供給リードと追加の3番目のリードは、ホイートストンブリッジ回路の別の辺に配線されています。構造の対称性により、2つのケーブルは反対の動作をして相互の影響を補償するので、ケーブルの抵抗値は、非対称の配線や温度勾配のある場合を除き、3線式回路で補償されます。
HBM特許取得済みの4線式回線では、すべてのケーブルの影響が補償されます。
計算による補償を自己補償型のひずみゲージで発生した残留誤差に対して行うことができます。これは調整されていないか、あるいは調整が十分でないもの、および小さな誤差(ゲージ率の温度依存性に起因するものなど)が対象です。
これを実施するために温度を並行して計測し、ひずみの計測値をオンラインまたは付属の演算チャネルで修正します。温度勾配も考慮する必要があります。必要に応じて温度の計測点ポイントは複数使用する必要があります。catman®などのHBM 提供のソフトウェアツールにより、計算による適切な補償を行う事もできます。
センサ自体に加えて、アンプも温度の影響に関して重要な役割を担っています。これは熱起電力の場合に特に適用されます。
熱電効果のため、温度依存の電圧が異種材料の接続部に発生します。熱電対は、この効果を使用しています。しかし、これはひずみゲージ計測システム(温度依存のゼロ点誤差発生(ゼロ信号リターン)では計測精度に影響します。
熱起電力の問題は主にキャリア周波数アンプを使用して避けることができます (HBM QuantumX MX1615B / QuantumX MX1616B)。この方式では、正弦波の励起電圧を使用するので、計測信号を周期的な信号に変調できます。信号はバンドパス・フィルタ通過後にデジタルで復調されるので、準静的な熱起電力はアンプでフィルタすることができます。
計測結果に対する温度変動の影響を最小限に抑えるために、影響量に応じて、さまざまなオプションがあります。以下のリストは温度の影響が低い場合の例です: