初の全面改修-2012年

重量計は、取り立てて大がかりなメンテナンスをすることなく8年間に渡って運用されましたが、2012年4月の時点で、改修が必要になりました。スチール製の梁が曲がり、プレートは摩擦と岩による衝撃で摩耗していました。「突き破られる可能性が、無視できなくなっていました。プレートの下にある力の計測セルが破壊される可能性があったのです」(Fritschi氏)。

改修は大がかりなものとなりました。まず、チームはIllbachの流れを迂回させて、掘削機を通すルートを作る必要がありました。その上で、スチール製の板と梁を実際に取り替える作業が行われました。その間、研究者が計測システムを使用し続けることができるようにするため、エラストマーベアリングと計測用セルは新しいスチール構造に取り付けられました。

新しいスチール板を骨組みに載せる前に、チームはまず、負荷のない状態で計測用セルを検査しました。スチールフレームとカバープレートの重量を個別に計測し、このデータをプロジェクトの最初に記録していた計測値と比較しました。

「年月を経て、2つの計測用セルのゼロ点が変化しているものと思っていました」と、Fritschi氏はプロセスを説明します。「そして実際に、それぞれの値には10トンのずれが生じていました。しかし、ずれは一定だったことがわかったため、結果は簡単に修正できました。したがって、古い計測用セルを継続使用できることがわかりました」(Fritschi氏)。その時点では、計測用セルは、固定用のアンカーボルトを緩めることができなかったため、取り替えることはできませんでした。

半年後、夏の土石流の季節が過ぎた後、研究者チームは多大な労力を費やして計測用セルを取り外しました。実験室で検査を実施して、ずれを修正するか、故障している場合には交換するためです。計測用セルは、2013年春に重量計に再び設置されます。Fritschi氏は最後に、次のように話を締めくくりました。「あと数年は、ここIllgrabenで調査を続けたいと思います。土石流の物理的プロセスには、まだ理解できていない部分があるからです」。

土石流の計測: 巨大な力をモニタリング

 

土石流が発生すると、大量の岩石や泥水が山腹から谷へと急激に流れ込みます。このときに作用する力について理解を深めるため、スイス連邦森林・雪崩・景観研究所(WSL)は、HBMの計測技術に基づく特殊な重量計を使用しています。

 

 

土砂が山を流れ落ちる光景を目の当たりにしたら、その雷鳴のようなとどろきをすぐには忘れられないでしょう」と、スイス連邦森林・雪崩・景観研究所(Swiss Federal Research Institute WSL)のYolanda Deubelbeiss博士は話します。

土石流は、豪雨の最中やその後、または雪解けと同時に山で頻繁に発生します。緩い土壌は水分で飽和すると滑り出し、多くの岩石を巻き込みながら流れていきます。樹木や巨大な岩も流れに巻き込まれ、谷へと転がり落ちていきます。多くの場合、小川や小さな峡谷に沿って進み、毎秒数メートルの速さで進路上にあるものをすべて破壊します。「土石流が川床から外れた方向へ進むと、特に危険です。家屋や橋、道路などに深刻な被害を与える可能性があるからです」と、博士は説明します。

ハザードマップには、危険な区域と想定される被害の規模が表示されます。ハザードマップは、所定のシナリオに基づくコンピュータシミュレーションの結果と、それよりもさらに重要な、現場の観測結果と過去の土石流の損害データに基づいて作成されます。こうした情報は、例えば地域の開発計画に生かされたり、砂防構造物やダムの建設、あるいは川床の拡張といった防災対策の立案に役立てられたりします。Deubelbeiss博士は説明します。「コンピュータモデルは、土石流の流れに関する理論的結論を導き出すにすぎません。

このような巨大な力から人々の命をより効果的に守るためには、土石流の際に何が起きているのかを詳しく知る必要があります。それによって、私たちが研究しているシミュレーションモデルをさらに進化させ、自然のプロセスに近付けることができます」。そうしたモデルは、例えば、一部の土砂が主流からどれだけ遠くまで反れるかといった予測をしやすくします。

 

 

土石流の計量

 

こうした研究を進めるため、スイス連邦森林・雪崩・景観研究所(WSL)は2000年に、スイスアルプスのあるヴァーレ州に位置するIllgrabenと呼ばれる土石流の通り道に土石流観測所を設置しました。「この場所は理想的です。Illbachはスイスアルプスで最も土石流の多い場所の一つで、毎年数回は土石流が起きるからです。ここでは、自然のプロセスを計測できます」と、Deubelbeiss博士は説明します。2004年からは、土石流計測用の重量計に加えて、ビデオカメラ、超音波センサ、レーダ計測装置による計測も行われています。「重量計により、外から見ているだけでは分からない、土石流内部の物理的プロセスの理解を深めることができます」と博士は言います。研究所によると、このプロジェクトは、この種のものとしては世界初の試みで、規模も世界最大とのことです。

 

 

力の成分を分離しながら計測

土石流重量計の設置
重量計の内部に搭載されたロードセルとひずみセンサ

重量計には、橋の建設に使われるコンクリート製の基礎が使用されています。基礎は浅いU字型をしており、Illbachの川床を抱くようにして設置されています。実際の計測器は、この基礎に埋め込まれます。面積が8m2で厚さ12mm、重さ300kgのスチール板が複数のH形鋼(HEB360)セクションで構成されるスチールフレーム(2800kg)で支えられ、フレームの各セクションは、計測用セルの上に置かれます。

「これほど巨大で動的な力を計測できる重量計を構築することは、容易ではありませんでした。土石流は、途中で計量するために止めることはできません」とWSLの計測技術の専門家Bruno Fritschi氏は説明します。土石流の力を表現するため、この重量計は、垂直な法線力を記録します。この力は、地面に対して上から圧力を与えます。また、これと同時に水平なせん断力も計測します。

これは、物質が連続的に前方に移動する際に発生する負荷です。流れの深さとスピード、間隙水圧も計測されます。「私たちはまず、これらのデータ点を組み合わせて、土石流で作用する力の実際の概要を把握します。しかしこの相互作用が、計測システムにおける最大の課題でもあります。それぞれの計測値は、互いに切り離して表現しなければならないからです」とFritschi氏は説明します。「HBMのひずみセンサを採用したのは、このような理由からです。HBMのひずみセンサは、精密なセンサシステムを提供するだけでなく、水平応力による影響を受けることなく垂直応力を計測できるからです」。

これを可能にしているのが、スチール板とロードセルC2,(50N)の間に設置され、力を伝達するエラストマーベアリングです。タイプZELエラストマーベアリングは、複数のスチール板とゴムの層を交互に接合しながら重ね合わせた構造をしています。力を伝達する際には、弾性部分が、水平方向の荷重を実際に排除します。横方向の力は、各層がずれることで吸収され、その影響はロードセルには伝達されません。2つのロードセルU2Aは、土石流の水平方向の力(20トン)も吸収し、接続金具でフォースシャントを最小限に抑えます。

 

 

強烈な衝撃に耐える

 

結果はトン単位で計測されますが、これは、巨大な力が発生することを示しています。「計測システムは、正確な結果を返す必要があるだけでなく、巨大な力に耐えられなければなりません。土石流の際には、巨大な岩が速いスピードで重量計の上を転がり、強い衝撃を与えます。ひずみセンサは、この巨大な負荷に耐える必要があります。過負荷保護装置を設置することはできません。土石流では、そこで実際に発生する荷重を計測しなければならないからです」(Fritschi氏)。

これまでのIllgrabenでの計測結果によると、圧縮荷重は最大で40トンに達し、その移動速度は最大で6 m/sになります。HBMセンサシステムのエラストマーベアリングは、こうした力を吸収します。しかし、技術的課題は、こうした力だけではありません。過酷な環境でも信頼性の高い動作を要求されます。「重量計は、周囲を泥と水に囲まれています。冬は寒く、夏は暑い。システムは乾燥した状態に維持されていますが、計測条件は非常に厳しいものです」とFritschi氏は付け加えます。

 

 

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